単一症候性夜尿症に積極的治療は避けるべきと考える理由

単一症候性夜尿症に積極的治療は避けるべきと考える理由について説明します

  1. 新生児の反射的膀胱(赤ちゃんの膀胱)から,成人の意図的膀胱(成人の膀胱)に完全移行するのは,定型的発達の小児で3~4歳と言われている(図参照).だから,「5歳を超えて,昼間尿失禁があるのを異常とする」というのは妥当である.しかしながら,病態の異なる夜尿症の定義を「5歳以上の小児の就寝中の間欠的尿失禁」とするのは誤りである.
  2. 6歳時に10%強,8歳時に5%の有病率と考えると,この辺りの年齢で10人から20人に1人に単一症候性夜尿症があることになる.疾患を正常者の分布の極端な部分と考えてスクリーニングをかける場合ですら2.5%程度をカットオフとするわけであるから,一つの疾患が5~10%あるというのは受け入れがたい.有病率が2.5%程度になる年齢を考えると10歳くらいであり,10歳くらいでの夜尿を単一症候性夜尿症と呼ぶならば受け入れることはできるが….
  3. 「患者本人や保護者が夜尿に悩んでいる場合には,積極的に治療を行うことが推奨される」とする根拠に自尊心の低下が起こるからと一般には考えられている.単一症候性夜尿症は家族性であることがほとんどであるというのが個人的な印象である.顔かたち同様,両親のどちらかと同じ歴史をたどることが多い.家族にそのことを説明することで親も子供もストレスがなくなる.疾患であるとレッテルを張って,疾患として治療するよりも,これらを患者本人や保護者にきちんとICすることが重要である.なにしろ多様性を受け入れる社会となっているのだから….
  4. 10歳未満では,「患者本人や保護者に対して夜尿について十分な情報を伝えて,それでも夜尿に悩んで治療を望んでいる場合には,積極的に治療を行うことが推奨される」であれば受け入れることができる.
  5. 夜間のADH分泌が不十分か否かは別として,デスモプレシンが遠位尿細管の水再吸収を増やして夜間尿量を減らし夜尿は軽快するだろうことは容易に想像できる.しかし,この治療ですら対症療法的であることは事実である.何しろ夜尿症は尿崩症ではない.おそらく翌昼は尿量が多いのだろう.低Na血症になりやすく溢水になりやすいことなど,決して副作用はゼロではない.過去には,昼間にフロセミド(塩類利尿薬)を内服させて夜間脱水状態にして夜尿を改善させようなどという馬鹿げた治療法がやられたことがあることを忘れてはならない.
  6. 抗コリン剤は,内科的膀胱拡大効果で,対症療法として夜尿を減らす可能性がある.便秘が起こりやすいことはもちろんだが,最大の危険は長時間作用型抗コリン剤による不整脈である.QT延長を引き起こす薬剤としてベシケアやバップフォーが知られており,やむを得ず使用する場合には致死的な不整脈を起こさないように少なくとも薬剤開始前に心電図をチェックしておくべきである.
  7. 三環系抗うつ薬は抗コリン作用や睡眠覚醒障害の調節などの作用で夜尿症に有効であることが知られている.急性薬物中毒に関連して,QT延長症候群,ブルガダ型心電図変化,心室頻拍・心室細動などの致死性不整脈がある.そのために海外では一時夜尿症に対する使用は禁忌となった.やむを得ず使用する場合には薬剤開始前に心電図をチェックしておいたほうが良いだろう.抗コリン剤にしても,三環系抗うつ薬にしても,命を懸けて夜尿症を治療するのはやめよう.
  8. アラーム療法は唯一中止後も効果があり,根本的治療になる可能性のある方法と言われている.夜尿の原因の根本を睡眠覚醒障害と考えると,もっとも本質に近い治療である.しかし睡眠覚醒がうまくいかないことは障害なのだろうか? 睡眠覚醒の質で,親からもらってきた質であり,顔かたち,身長,体形,運動能力,知的能力,積極的か消極的か,過敏かどうかなどと同じで疾患と考えるべきではないと思う.

 

もちろん単一症候性でなく,昼間尿失禁があるような場合は,必ず原因を調べて治療する必要がある.親はもちろんだが,特に子供に対して,夜尿が病気ではなく,ほぼみんなが自然治癒し,その時期はお父さんかお母さんと同じような時期であることを伝えてあげることが最も重要なことだと思う.それでも治療を強く希望された場合は,各治療ので効果と副作用をしっかりお話しし,やるべき検査はしっかりやって本人とご家族の納得の上で開始すべきであると思う.

 

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