ヒトの常在菌とビタミンK

哺乳類にはビタミンKを合成する酵素がない.
2つのビタミンKが天然に存在し,植物の葉緑体に含まれるフィロキノンと,細菌が産生するメナキノンがあり,大腸菌などによるメナキノンの産生は哺乳類にとって重要なビタミンK供給源である.

緑葉野菜の摂取と,腸内細菌の大腸菌からの供給があり,進化の過程で哺乳類が自らビタミンKを合成する能力を獲得する必要がなかった.

 

母体から胎児へのビタミンK移行量は少なく,母乳中ビタミンK含量も低いことから,新生児はビタミンK不足に陥る危険性がある.このことが何故進化に影響しなかったのかが重要である.恐らく近年まで,出生時に産道で大腸菌をはじめとした細菌が母親から伝搬していたのだろう。近年の帝王切開などはその伝搬を妨げただろうし、産道の過度な消毒も問題かもしれない.環境が過度に清潔であることもあるかもしれない.最近では虫歯菌と考えられているミュータンス菌の感染やCMV感染を防ぐために,母親の頬ずりやキスをやめさせたり食器を別にしたりする.あたかも感染することが悪いことかのように….

母親と新生児のスキンシップは,母児の双方向の愛着形成に非常に大切だと思う.そればかりではなく,皮膚の常在菌の移行,上述したような腸内常在菌の移行,口腔内の常在菌の移行など,人生に非常に重要な皮膚・腸管・口腔内の感染防御の一機構を妨げている可能性がある.哺乳類と細菌の共存は歴史的に非常に重要であることを忘れて,常在菌を移行させて病原菌を防ぐなんてことが容易にできるわけがないことを忘れて,過激に走るところは日本人の特質であるかもしれない.

 

このブログでも繰り返し述べたが,COVID-19に小児が強かったのは小児にとってすべてのウイルス感染が初感染であり,これに対応できるように免疫機構ができているからである.成人にとっては普段かかる風邪ひきは子ども時代に罹ったものの再感染である.きっと子どもたちが今COVID-19に初感染しておくことが彼らの人生にとって重要だと思うのだが….