血栓形成とネフローゼ症候群

血栓形成反応は,血液凝固反応と血小板活性化反応が相互に絡み合って起こる。

APS(高リン脂質抗体症候群)は一般に過凝固の病態と考えられているが、習慣性流産の予防にアスピリン(抗血小板剤)が投与されて有効である。

 

一般的に、動脈血栓症は血小板血栓(血流の速い血管で生成されやすい血栓)と考えられており、治療・予防の中心は抗血小板薬であり、静脈血栓症はフィブリン血栓(血流の遅い血管で生成されやすい血栓)であり、治療・予防の中心は抗凝固薬である。

 

ネフローゼ症候群は、アルブミン(分子量6.6万)などの中くらいのサイズの蛋白が尿から漏出してしまう。抗凝固因子であるATⅢ(分子量6.5万)は漏出し、凝固因子であるフィブリノーゲン(分子量34万)は過産生されて易凝固状態となる。(ちなみに過産生されるコレステロール(LDL;アポBが分子量54万)も高値となる。) このことだけを考えれば、ネフローゼ血栓形成は静脈系である。

ネフローゼ症候群はこの理由以外に、低アルブミン血症による血管内ボリュームの減少と血液濃縮が起こることも易凝固状態の原因であり、また副腎皮質ステロイド剤は①凝固因子産生が亢進する、②vWF(von Willebrand factor)活性が上昇する、③血小板活性が亢進する、④線溶抑制状態になる、といった報告が見られ易凝固状態の原因となりうる。これらを合わせて考えると、動脈系に起こる可能性も考えられる。

 

エビデンスが高くなかろうとも、自分の子どもや孫がネフローゼ症候群となった時に、この対策をしないで副腎皮質ステロイド剤を投与することは決してしないだろう。