重症心身障害ワンポイントレッスン(2) 排尿障害

  1. 排尿機構の発達
    なぜ子どもがおもらしをするのでしょうか?
    下に2枚の絵を載せました。図1が「おとな膀胱」で,図2が「あかちゃん膀胱」です。まず「おとな膀胱」をもつ成人の排尿行動について考えてみます。膀胱に尿がたまると、その情報はまず脊髄の神経核に伝わり、そこからリレーして大脳皮質に伝わり、尿意として認識されます。大脳皮質では尿意に基づいて「どのタイミングでトイレに行くか? どこのトイレに行くか? どのルートで行くか? 急いで早歩きで行くべきか? トイレのどの便器で排尿しようか?」など、さまざまな環境要因とやり取りします。結果、適切な時間に適切なトイレを選択し、目的とする便器に到達したら衣服を下げ、「さあ、おしっこしよう」となるわけで、その大脳の指令は先ほどと逆方向のリレーで脊髄から膀胱排尿筋と尿道括約筋に伝わって排尿が起こります。
    つぎに、あかちゃん膀胱の場合を説明します。膀胱におしっこがたまると、おとなの場合と同じように、まず脊髄の神経核に情報が伝わります。ただし、その先には大脳皮質との連携がなく、その場で反射のループが起こり、尿意も感じないままに膀胱排尿筋と尿道括約筋に刺激が伝わって排尿が起こります。……このメカニズムは「膝蓋腱反射」と同じです。
    あかちゃん膀胱からおとな膀胱への移行は発達につれてすこしずつ進みます。完全に移行するのは一般的に3〜4歳頃と言われています。つまり成人のみなさんの多くが日常行っている排尿様式を確実に実行できるようになるのは、早くても三歳以降ということです。発達の逆の老化は、大脳皮質のコントロールが効かなくなり、「あかちゃん膀胱」に戻っていっておもらしが始まります。このコントロールが効かない状況を「過活動膀胱」と呼びます。あかちゃんも、おじいちゃんおばあちゃんも生理的過活動膀胱です。

  2. 多くの重症心身障害児者の排尿
    多くの重症心身障害児者は大脳皮質にダメージを受けています。脊髄にダメージがあることは少ないので、あかちゃんや老人と同じで「あかちゃん膀胱(過活動膀胱)」の状態であることが多く、意図に反して膀胱が充満すると勝手に反射的に排尿します。図2の状態です。これは年寄りの過活動膀胱も同じです。このような排尿は、オムツを必要としますし、わずかに尿路感染の頻度は増えるかもしれませんが、基本的に腎臓にダメージを与えることはありません。このような場合に排尿間隔があく場合の多くは尿量が少ないわけで、脱水気味のことが多いです。水分を与えることで尿は出てくると思います。導尿してはいけないわけではないのですが、必要のないことが多いです。絶対にいけないのは利尿剤を使うことです。尿は出ると思いますが、脱水気味だったわけですから更に脱水になってしまいます。

  3. 脊髄以下にダメージのある場合
    図3の状態です。脊髄までの反射弓が働いていません。このような状況を狭義の神経因性膀胱(脊髄から膀胱に至るまでの末梢神経の障害)と言います。この場合は膀胱内が高圧となり、腎臓を傷め、尿路感染も起こしやすくなります。何らかの尿路ケアが必要となります。重症心身障害のごく一部にこのような患者がいますが、殆どは違います。

  4. 狭義の神経因性膀胱に対する介入
    多くは膀胱内が高圧となるので排尿させて減圧が必要です。
    (1) 圧迫排尿×
    下腹部の膀胱にあたる部分を外から手で圧迫することで排尿させる方法ですが、膀胱内が高圧になって腎障害につながるので、やってはいけません。
    (2) 持続導尿×
    急性期に使用されますが、慢性的な管理には不向きです。持続導尿を続けると膀胱は合目的的に小さくなります。そうすると導尿をやめた時にあっという間に充満し高圧となります。ずっとカテーテルが入っているので感染も起こします。腎機能も悪くなってしまいます。もしもやるとしたら、夜間だけ持続導尿をして、昼間は下記のCICをやる方法です。
    (3) 清潔間欠的自己導尿(CIC)
    処置(医療的ケア)としては唯一正しいやり方です。膀胱容量に合わせて、一日の中の回数を決めます。オムツに漏れるようなら回数を増やすべきです。
    (4) 外科的方法
    膀胱皮膚瘻:膀胱と皮膚に適切な大きさの穴をあけて、ある程度の膀胱内圧になったらその穴から自然に排泄されるようにします。穴の大きさなど外科医に手技的な熟練が必要です。膀胱カテーテル瘻と違って膀胱が小さくならないようにできます。腎傷害も起きにくいし、感染も起きにくいです。
    (5) 薬物療法
    膀胱を柔らかくする(コンプライアンスを上げる)ための治療薬があり、腎臓を保護してくれます。代表的なものは抗コリン剤という種類の薬で、ポラキス®バップフォー®、ベシケア®などがありますが、欠点として不整脈(QT延長による)を引き起こす可能性があります。失神などを起こす可能性があるので、投与前に心電図をとっておくのが良いかなと思います。

  5. 利尿剤の使用
    尿量減少の場合,なぜ尿量が減少したかを考えなくてはいけません.尿量減少の最多の理由は,腎血流の低下であり,その最大の理由は循環血漿量の減少(脱水)です.この状態で利尿薬を使用すると更なる血管内脱水を助長することになり,腎障害をはじめとした臓器障害を引き起こす可能性があります.ループ利尿剤を使用する正当な理由は,細胞外液量(特に血管内液量)の過剰であり,決して尿量減少ではありません.

これらを考えながら、重症心身障害の排尿障害への対応を適切に行いましょう。

成人膀胱

赤ちゃん膀胱

脊髄損傷膀胱

 

重症心身障害ワンポイントレッスン(1) 発熱とクーリング、解熱剤

  • 発熱
     発熱は生体防御反応の一つであり、発熱は生体に決して不都合なことばかりではない。発熱中枢のサーモスタットの設定温度は感染症等によって上げられ、実際の体温がその設定温度に到達するまで①四肢末梢の血管を収縮させ、②振るえる(振戦)ことによる筋の摩擦で熱を産生することによって目的を遂げる。逆に実際の体温が設定温度より上がってしまう(解熱時など)と、①末梢血管を開き、②汗をかいて熱を放出する。
     感染症時の発熱は病原菌と闘っている時にでるエネルギーであり、生体の抵抗力を高める作用もあり発熱自体が悪い影響を与えることはない。また蛋白質が変性するのは42度以上と言われており、自分が発する発熱により脳に障害がでることはまず考えられない。
     発熱の大部分を占めるウイルス感染症(いわゆる風邪)に抗生物質は効果がない。つまり発熱の多くは抗生剤は不要である。インフルエンザやヘルペスウイルス以外に抗ウイルス剤は存在せず(COVID-19にはあることになっているが…)、単なる対症療法でよくて病院に来て風邪薬をもらって風邪が早く治るということない。では何故医者にかかるかというと、ウイルス感染以外の重大な発熱性疾患を否定するためである。もちろん、原因検索が最優先されることは言うまでもない。

  • 発熱の症状緩和
    1) 冷却(クーリング)
     自分が発熱した経験のある人は、熱の上がるとき、熱の上がりきったときを良く思い出して、利用者にもできるだけ快適な状態を作る。しゃべれる利用者には、寒いといえば暖かく、暑いといえば涼しくしてあげればよい。まだしゃべれない利用者の場合は、手足が冷たく悪寒戦慄があれば(寒いといっているのです)毛布などで温め、熱が上がりきって手足が熱くなれば(熱いといっているのです)薄着にさせて涼しくする。本人が嫌がるような冷却はしてはいけない。自分がインフルエンザで発熱し震えているときに、裸にされたり冷たいタオルで身体を拭かれたりしたら苦しいですよね。
     繰り返し説明するが、熱の上がるとき(設定体温より実際の体温が低い)は寒いといい手足が冷たく悪寒戦慄があり、熱の上がりきったとき(実際の体温は設定体温と同じか少し高い)は暑いといい手足が熱くなって発汗する。設定体温は後述するが、視床下部サーモスタットがあって通常は37℃に設定されている。
    2) 解熱剤の使用
     解熱剤の使用は、その利点と副作用のバランスを考慮して行わなくてはならない。解熱剤の上手な使用によっても熱性痙攣を抑えることはできないと考えられており、利点はほとんど“苦痛の緩和”のみである。原疾患の診断が遅れると考えられる場合や、使用により危険性が増すと考えられる場合は使用すべきではない。抗生剤と解熱剤は、長期使用により薬剤熱を引き起こす代表的な薬剤である。
     解熱剤を使用しても3~4時間後には体温は再上昇してもともとの経過に戻ってしまう。解熱剤がもともとの感染症に効くということはない。解熱のみを目的に積極的に解熱剤を使う必要は全くなく危険である。持続して平熱に下げようと考えるのはばかげている。高熱による消耗や食欲不振を和らげるために使用し、例えば経口摂取(主に水分)が乏しい場合に3~4時間元気にしてあげて十分摂取させるような場合にはじめて意味があり、入院して点滴しているような場合にはあまり意味がない。風邪ひき(ウイルス感染)の場合に、解熱剤がその経過を短くすることはないことを十分理解して使用しよう。

 

  • 体温コントロール困難
     体温コントロールの中枢は、視床下部にある。視床下部は交感神経・副交感神経(自律神経)機能や内分泌を統合的に調節することで、生体の恒常性維持に重要な役割を果たしている。重症心身障害を持った利用者の多くはここには障害がなく体温調節は可能である。しかし、障害が強く視床下部にも障害が及ぶ場合、特に汎下垂体機能低下症の患者などは体温調節が難しいことが多い。中枢性の甲状腺機能低下や中枢性の副腎機能低下などが併存していることが多い。
     このような場合は、環境が寒ければ体温は下がり、環境が暑ければ体温は上がり、変温状態となる。発熱のところに記載した原則は無効で、スタッフの対応の仕方で熱は上がり下がりするので細かい調節が必要である。何故37℃くらいに体温を調節すべきかというと、全身の組織の数多くの酵素(細胞が生きていくために働いている)が最も有効に働いてくれる温度がこのあたりだからである。
     解熱剤は、体温中枢の設定温度(サーモスタット)を変更する(下げる)ということで作用する。視床下部に障害がある場合は解熱剤は効かないか効きにくい。むやみに使ってはならない。

ヒトの歴史と微生物

1982年春に1年目の医師としてカトリック医療施設に赴任しました.施設内には多くのシスターがいて,産婦人科が主たる診療科の一つで年間1200例の分娩がありました.シスターの何人かは助産婦(助産師ではなく)でした.庭には畑があってシスターが畑仕事をしていました.小児科医としてお産の立ち合いをすると,先ほどまで畑仕事をしていたシスターが土で皮膚のしわが黒くなった掌(もちろん手洗いはしていたと思いますが…)で素手で新生児を取り上げていました.「うーん,分娩は医療ではないのだな」というのが感想でした.ヒトは原人まで遡ると180万年前から,哺乳類としては3億年前から分娩があったはずです.今のような清潔な環境でのお産は最近のことです(帝王切開の歴史はせいぜい500年ほど前からです).お産は,母親から新生児が腸内細菌などの常在菌を正しく受け取り,その後の病原菌感染防御などを成立させるための大切なイベントだったはずです.

 

ヒトと微生物の共生を考えてみましょう.動物が酸素を使ってエネルギーを生み出せるのは、細胞の中に存在するミトコンドリアのおかげです。ミトコンドリアは20億年前に動物が外部から取り込んだ細菌ということになっています.取り込んだというと一方的な意図があるように思えますが,動物にもミトコンドリアにもメリットがありました.動物はミトコンドリアのおかげで好気的な(酸素を使った)エネルギー代謝で非常に効率的に動くことができます.ミトコンドリア活性酸素で壊れないようにヒトの細胞の核内に遺伝子を移動させて生き残ることができます.まさに共生です.

 

【ヒトの常在菌】

外界と接しないところが本当の体内です.外界と接する体外にはそれぞれ常在菌がいて,病原菌の体内への侵入を守ってくれます.

  • 皮膚の常在菌
    皮膚には表皮ブドウ球菌という常在菌がいます.お産の時もそうですが,お母さんとのスキンシップで赤ちゃんに移行していきます.赤ちゃんが何らかの理由で抗生剤を投与されると,おむつ部のカンジダ皮膚炎をおこしますが常在菌がやっつけられたためです.
  • 腸内の常在菌
    腸内常在菌の代表格が大腸菌です.母親の外陰部に大腸菌がいてお産の時に赤ちゃんに移行します.抗生剤を投与されると下痢したり出血性腸炎(クレブシエラ菌によるものが多い)を起こしたりするのは,腸内細菌叢が傷んでしまうからです.
  • 口腔内の常在菌
    口腔内にはα溶血性連鎖球菌やナイセリア属などがあります.赤ちゃんの鵞口瘡(口腔内カンジダ感染症)の多くは抗生剤投与後に起こります.
  • 膣内の常在菌
    デーデルライン桿菌は、健康な女性の膣に存在する常在菌です。デーデルライン桿菌は特定の菌につけられた名称ではなく細菌叢でLactobacillus(乳酸菌)属で腟内を酸性に保つ事で、雑菌の侵入を防いで健全な状態を保っています.ストレスなどの場合もありますが抗生剤を投与されると膣カンジダ症を起こしたりします.

 

【ヒトの常在ウイルス】

生態系を構成する一員としてウイルスも微生物の仲間だと考えられています.良く知られている常在ウイルスはヘルペス属です.単純ヘルペスウイルス,水痘・帯状疱疹ウイルス,伝染性単核球症を引き起こすEBウイルス,似た症状を起こすサイトメガロウイルス突発性発疹症を引き起こすHHV6,HHV7ウイルスなどです.これらのウイルスは初感染が成立して持続感染状態となりますが,ストレス時や免疫低下時に悪さをして,移植後患者などで問題になります.しかし,寄生しているだけとは思えず,共生状態なのではないかと想像されます.ヒトにとってこれらのウイルスがどのように役に立っているのかは現在は不明ですが,きっと将来証明されるだろうと思っています.

 

【話題提供】

ここからは,医師らしくなく,エビデンスに基づかず,思うがままに書くので,物語として楽しんでいただければ幸いです.

  1. 虫歯の原因「ミュータンス菌」
    「生まれたばかりの赤ちゃんは虫歯菌を持っていない」ということですが,体内の無菌状態から出てくるわけですから,基本細菌はほとんどいないはずです.虫歯菌は、どのようにして感染するかについて,①愛情表現のためのキス,②熱い食べ物を息で冷ましてからあげる,③固い食べ物を口で噛んで柔らかくしてからあげる,④箸やスプーンなどを共有する,などが悪さをするとされていて,避けましょうというキャンペーンがあります.しかし,親から子への常在菌の移行は重要です.虫歯菌だけ避けるということはできません.ハグしたりキスしたり,食器や食べ物を共有することは大切な愛情表現で,個人的には虫歯の予防よりずっとずっと大切なことだと思います.
    乳幼児期にミュータンス菌が感染しやすいとしたら,そのころの父母や祖父母の口腔ケアをしっかりすればよいと思います.COVID-19は5類になったわけですから,赤ちゃんとはマスクを外して声をかけながら笑顔で接してほしいと思うし,それこそ乳幼児期しか築けない愛着関係があり人格形成に非常に重要だと思いますよ.
  2. ビタミンK欠乏による頭蓋内出血(前ブログにも掲載)
    私が医師になったころは,新生児のビタミンK欠乏は新生児メレナといって生後2-4日頃に吐血とタール便を認めるものが中心でした.その後,生後3週間~2ヶ月で突然の頭蓋内出血を引き起こすことが問題になり,今は生後2か月までに3回ほどビタミンKが投与されます.もちろん重要なことなのできちんと投与するべきです.
    ところで,哺乳類にはビタミンKを合成する酵素がありません.天然には2つのビタミンKが存在し,植物の葉緑体に含まれるフィロキノンと,細菌が産生するメナキノンがあり,大腸菌などによるメナキノンの産生は哺乳類にとって重要なビタミンK供給源です.緑葉野菜の摂取と,腸内細菌の大腸菌からの供給があり,進化の過程で哺乳類が自らビタミンKを合成する能力を獲得する必要がなかったということです.
    ビタミンK欠乏による頭蓋内出血は本当に昔からあったのでしょうか? 生命にかかわるような病態は,長い歴史の中で進化にかかわります.新生児メレナは基本的に重大な病気ではなかったので,ビタミンKを合成する酵素は必要なかったわけです.昔から頭蓋内出血が起こっているならば,進化の過程でビタミンK合成が可能にならなかったでしょうか?
    恐らく近年まで,ほとんどの出生時に産道で大腸菌をはじめとした細菌が母親から伝搬していたのだろうと思われます.近年の帝王切開などはその伝搬を妨げただろうし、産道の過度な消毒も問題かもしれません.母体への抗生剤投与も影響しているかもしれません.環境が過度に清潔であることもあるかもしれません.
  3. 母体のサイトメガロウイルス初感染によるTORCH症候群
    TORCH症候群とは、赤ちゃんがお母さんのお腹にいるとき、特定の病原体(トキソプラズマ,風疹ウイルス,サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルスなど)によって、赤ちゃんに重篤な障害がもたらされる状態です.脳や心臓、眼など諸臓器に障害が見られます.以前はほとんどの妊産婦がサイトメガロウイルスに既感染だったのですが,おそらく過度の清潔によるのか妊産婦の抗体保有率が減り,妊娠中に初感染をおこすとTORCH症候群を起こす可能性が上がっていることから,2人目以降の妊娠中にすでに生まれているお子さんとのキスや頬ずりを避けようというキャンペーンがあります.子どもの唾液が付いていそうなもの(洗っていない食器、食べ・飲み残し等)は口に触れないようにし、唾液がついている可能性のある子どもの頬や唇へのキスは避けようということです.
    もちろんTORCH症候群は重大な疾患ですから避けなくてはいけませんが,お兄ちゃんやお姉ちゃんとの愛着はどうなるのでしょうか? 非常に残念な発想です.子どもたちを過度に清潔な環境で育ててはいけないということだと思います.
  4. HHV6感染症と二相性急性脳症
    二相性脳症は,けいれん重積型二相性脳症(ASED)と呼ばれ,いつごろから存在した疾患かわかりませんが2000年以降に知られるようになった脳症です.慢性期に知的障害>運動障害を残す可能性があり,てんかんに移行する例も少なくありません.
    突発性発疹症は,HHV6やHHV7で引き起こされる乳幼児期の発疹性疾患で一般には重症化しません.しかし有熱期にけいれんで発症する二相性脳症を引き起こす可能性があり,二相性脳症の最も多い原因です.HHV6は,母親の口腔内にいて離乳食がはじまったころに食器の共有によって感染するので,以前は生後6か月前後に圧倒的に多かったのですが,今は1歳以降に発症する子も半分以上にあります.
    HHV6がいつから存在したウイルスか知りませんが,きっと大昔から離乳食がはじまったころに感染し,6か月前後の児の免疫状態か母親からの移行抗体の状態かわかりませんが,このころにかかるのが安全だったのではないかと思います.今は食器を共有しないし,安全な時期に感染せずに少し月齢が進んでから感染することが,二相性脳症の原因になっている可能性はないのでしょうか?

ヒトの常在菌とビタミンK

哺乳類にはビタミンKを合成する酵素がない.
2つのビタミンKが天然に存在し,植物の葉緑体に含まれるフィロキノンと,細菌が産生するメナキノンがあり,大腸菌などによるメナキノンの産生は哺乳類にとって重要なビタミンK供給源である.

緑葉野菜の摂取と,腸内細菌の大腸菌からの供給があり,進化の過程で哺乳類が自らビタミンKを合成する能力を獲得する必要がなかった.

 

母体から胎児へのビタミンK移行量は少なく,母乳中ビタミンK含量も低いことから,新生児はビタミンK不足に陥る危険性がある.このことが何故進化に影響しなかったのかが重要である.恐らく近年まで,出生時に産道で大腸菌をはじめとした細菌が母親から伝搬していたのだろう。近年の帝王切開などはその伝搬を妨げただろうし、産道の過度な消毒も問題かもしれない.環境が過度に清潔であることもあるかもしれない.最近では虫歯菌と考えられているミュータンス菌の感染やCMV感染を防ぐために,母親の頬ずりやキスをやめさせたり食器を別にしたりする.あたかも感染することが悪いことかのように….

母親と新生児のスキンシップは,母児の双方向の愛着形成に非常に大切だと思う.そればかりではなく,皮膚の常在菌の移行,上述したような腸内常在菌の移行,口腔内の常在菌の移行など,人生に非常に重要な皮膚・腸管・口腔内の感染防御の一機構を妨げている可能性がある.哺乳類と細菌の共存は歴史的に非常に重要であることを忘れて,常在菌を移行させて病原菌を防ぐなんてことが容易にできるわけがないことを忘れて,過激に走るところは日本人の特質であるかもしれない.

 

このブログでも繰り返し述べたが,COVID-19に小児が強かったのは小児にとってすべてのウイルス感染が初感染であり,これに対応できるように免疫機構ができているからである.成人にとっては普段かかる風邪ひきは子ども時代に罹ったものの再感染である.きっと子どもたちが今COVID-19に初感染しておくことが彼らの人生にとって重要だと思うのだが….

自閉スペクトラム症(ASD)の病態の本質

ASD病態の本質


ASDの病態の本質は「自己と他者との関係認識の特異性」で、これによってすべての症状を説明できるように思います。不完全で、今後どんどん修正しなくてはいけないと思いますが、フロー図を書いてみました。(フロー図の変更;2023.11.14)

 

ヒトという生き物

ゴールデンウィークの前半は、長男家族(孫3人)と、上村家のルーツである琵琶湖湖北へ旅し、おやじの墓から少し遺骨を盗んできました。近くの墓におふくろと同居させるためです。墓石の後ろに1か所穴がありそこから遺骨を取り出します。本来は役場に届け出るべきなのでしょうが、田舎の親族は“かまわない、かまわない”と言ってくれました。大人の手はなかなか入らず、まだ幼い中一の孫が手を突っ込んで骨壺を出してくれ、昔は土葬だったそうで火葬された骨の入った骨壺はきっとおやじのものに違いないと考えて一部持ち出しました。さらに手を突っ込んだ孫が取り出したのは誰のものかわからない、しかし先祖のものに違いない椎体で、孫の表情が一瞬固まりました。

孫たちと近くの宿泊施設で一泊して、孫たちとグランドゴルフを楽しみ日焼けして戻ってきて、ゴールデンウィークの後半は家でのんびりとしながらヒトが生き物の本質を考えさせてくれた2つの本を読みました(完読ではありませんが…)。1つはブレイディみかこ著の「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」、もう一つはステファン・W・ポージェス著の「ポリヴェーガル理論入門:心身に変革をおこす「安全」と「絆」」でした。感じたことのキーワードは「進化」、「爬虫類脳と新哺乳類脳」、「扁桃体と大脳皮質」、「副交感神経」、「危険と安全」、「傷つけることと大切にすること」だったでしょうか。

私は重症心身障害の医療に携わっているのですが、そこから多様性の尊重が大切であることを教わり、それはsympathy(共感)ではなくempathy(共感力)が重要であることを感じさせ、ヒトが他者と生きる上で大切なことは傷つけないことであると痛感します。コミュニケーションをスムーズに進めるには「傷つけないこと」を意識することが肝です。これは子育てにも共通する部分です。

ヒトには2つの自分がいます。1つは意識下に環境中の危険を察知し身体的に反応する(防衛反応)反射的な自分で、爬虫類は主にこの機能で生きているわけです。もう一つの自分は、この反射的な防衛反応を制御する自分です。卵が先か鶏が先かわかりませんが、とにかくヒトは戦闘能力(防衛力)が低いので、安全な環境を作るしか生きていく術はなかったわけです。つまり、ヒトはこの防衛反応を制御できる方向に進化し、大脳皮質を発達させたわけです。防衛反応を制御するために必要な環境は安全であるし、ヒトは安全という環境を得たために制御機能が進化したとも言えます。

そして多くの病は防衛反応を制御する神経学的抑制(主に大脳皮質による)の機能不全であるということができ、先天的にも後天的にもこの状況が病を引き起こします。発達(大人になる)とは、この大脳皮質機能が成熟することであり、老化とは、この大脳皮質機能が退行することであるわけです。この機能不全が起こりやすい状況を考えてみると、低年齢(未発達)、発達障害HSP扁桃体の過敏)、愛着障害(大脳皮質特に前頭前野が育たない)、PTSDなど強いストレス、そして短期的には疲労、眠気、飲酒、月経前症候群などがあります。

この機能不全を少しでも防止し軽快し治療するコツは「安全」であり、特に小児の健やかな育ちに対しては家庭内や学校内における安全(その子が安心できる環境)が必須です。そしてこの安心できる安全があってこそヒトは能力を存分に発揮できます。特に感受性が高く、さまざまな場面で不安や恐怖を感じやすいお子さんでは尚更です。ロシアのウクライナ進行をみると人類はもっともっと進化する余地があり、特に多くの社会を動かしているヒトたちこそ発達しないといけないのだと思います。私の主張したいことは、多様性の尊重は意識的でないと難しく「傷つけないこと」を強く意識しておかないといけなくて、更には子育てに最も重要なことも傷つけないことであり、あるがままの我が子を意図的に理解し尊重し安全の中に置くことです。

血栓形成とネフローゼ症候群

血栓形成反応は,血液凝固反応と血小板活性化反応が相互に絡み合って起こる。

APS(高リン脂質抗体症候群)は一般に過凝固の病態と考えられているが、習慣性流産の予防にアスピリン(抗血小板剤)が投与されて有効である。

 

一般的に、動脈血栓症は血小板血栓(血流の速い血管で生成されやすい血栓)と考えられており、治療・予防の中心は抗血小板薬であり、静脈血栓症はフィブリン血栓(血流の遅い血管で生成されやすい血栓)であり、治療・予防の中心は抗凝固薬である。

 

ネフローゼ症候群は、アルブミン(分子量6.6万)などの中くらいのサイズの蛋白が尿から漏出してしまう。抗凝固因子であるATⅢ(分子量6.5万)は漏出し、凝固因子であるフィブリノーゲン(分子量34万)は過産生されて易凝固状態となる。(ちなみに過産生されるコレステロール(LDL;アポBが分子量54万)も高値となる。) このことだけを考えれば、ネフローゼ血栓形成は静脈系である。

ネフローゼ症候群はこの理由以外に、低アルブミン血症による血管内ボリュームの減少と血液濃縮が起こることも易凝固状態の原因であり、また副腎皮質ステロイド剤は①凝固因子産生が亢進する、②vWF(von Willebrand factor)活性が上昇する、③血小板活性が亢進する、④線溶抑制状態になる、といった報告が見られ易凝固状態の原因となりうる。これらを合わせて考えると、動脈系に起こる可能性も考えられる。

 

エビデンスが高くなかろうとも、自分の子どもや孫がネフローゼ症候群となった時に、この対策をしないで副腎皮質ステロイド剤を投与することは決してしないだろう。