IgA血管炎と3歳半健診

今週の3歳半健診の出来事です。

一人の男の子で基本全く問題ない子です。

一応形式として舌圧子を使って咽頭所見を見るのですが膿性後鼻漏がみられました。

「お母さん、鼻の調子悪いね」

  「はい数日前から…」

そして健診の診察が終わり、発達の問題もないお子さんだったので終了しようとしたのですが、

  「ちょっと相談して良いですか?」

「はい、どうぞ」

  「実は数か月前から、膝から下に出血班が出たり引いたりしていて総合病院にかかっていますが、原因がわからなくて…」

診察すると、下腿に少し古くなった紫斑のあとがたくさんあります。

「アレルギー性紫斑病とかIgA血管炎とか言われなかった?」

  「そうかもしれないと言われています。」

「痰がらみの咳はありませんか」

  「汚い鼻水を出したり、痰がらみの咳がかなり前から出たり引いたりします」

「おそらく、いわゆる蓄膿症が悪さしていると思います。耳鼻科でしっかり治療してもらうと紫斑が出ることは減っていくと思います」

  「診てもらっている小児科に相談すれば良いですか?」

「そうですね、でもまず耳鼻科で治療してもらうのが良いと思います」

 

ということで、終わりました。自分が一般小児科診療しているならば、来てもらって治療するのですが、もどかしい思いをしました。

 

これに絡んでの、自分の論文2つは以下の通りです。Evidence basedではなくて、Experience basedですが…。

 

1.         Nakaseko H, Uemura O, Nagai T, Yamakawa S, Hibi Y, Yamasaki Y, et al. High prevalence of sinusitis in children with henoch-schönlein purpura. International journal of pediatrics. 2011;2011:562638.

doi:10.1155/2011/562638.

2.         Uemura O. The overlooked role of infectious foci in IgA vasculitis: a call for renewed clinical awareness. Pediatric research. 2026.

doi:10.1038/s41390-026-05005-4.

その治療、本当に正しいですか?―重症心身障害医療の“常識”を問い直す研究

医療には「当たり前」とされている考え方があります。しかし、その前提が崩れると、診断も治療も大きく誤ることがあります。重症心身障害(SMID)の患者さんを診療していると、その「当たり前」が通用しない場面に何度も出会います。

  • クレアチニンで腎機能を評価すると、なぜか良く見えてしまう
  • ビタミンDを投与すると、むしろ腎機能が悪くなる
  • 体重の評価基準が存在しない

これらは単なる例外ではなく、「前提そのものが違っている」可能性を示しています。

本記事では、こうした疑問から出発した4つの研究をもとに、SMID医療における評価と治療をどのように見直すべきかを整理します。

 

① SMIDにおける腎機能評価(2023, JMA J)

本研究は、重症心身障害(SMID)患者における腎機能評価の妥当性を検討したものです。従来広く用いられているクレアチニン(Cr)ベースのeGFRは、筋肉量が低いSMID患者では腎機能を過大評価することが問題となります。本研究では18例を対象に、Cr、シスタチンC(cysC)、β2ミクログロブリン(β2MG)によるeGFRを比較しました。その結果、CrベースeGFRは著しく過大評価を示したのに対し、cysCベースeGFRは最も高い精度(P30 77.8%)を示しました。「eGFR-CrはSMID患者の腎機能評価に適さない」と結論づけ、cysCの有用性を強調しました。SMIDでは筋肉量低下という病態そのものが測定系に影響する点を示した研究です。

 

② 活性型ビタミンDによる腎障害(2024, J Nutr Sci Vitaminol)

本研究は、SMID患者におけるアルファカルシドール(活性型ビタミンD)投与と腎機能変化の関連を検討した症例系列研究です。23例を解析した結果、投与開始後に腎機能が30%以上低下した症例が複数認められ、逆に中止後には有意な改善(中央値43→65 mL/min/1.73m², p=0.008)が確認されました。「活性型ビタミンDは骨形成を直接促進するわけではなく、血中Ca・P上昇を介して異所性石灰化や腎障害を引き起こしうる」と指摘しました。特に運動負荷の乏しいSMIDでは骨形成刺激が不足しており、薬剤の利益よりリスク(異所性石灰化など)が前面に出る可能性が示唆されたました。

 

③ SMID患者の至適体重(2024, J Nutr Sci Vitaminol)

SMID患者では筋肉量・骨量の低下により、一般的なBMI基準では適切な体重評価が困難です。本研究では111例を対象に、eGFR-cysC/eGFR-Cr比を筋肉量指標として組み込み、個別の至適体重を算出する新しい式を提案しました。式は「身長²×(18.5~25.0)×{10.41×(1-eGFR-cysC/eGFR-Cr)}×0.93」であり、骨量低下も補正されています。この指標は上腕三頭筋皮下脂肪厚(TSF)との相関で妥当性が確認されました。SMIDの栄養評価には「体重そのもの」ではなく「筋肉・骨量を考慮した体重」が必要であると提言しており、従来のBMI中心評価への重要な修正を提示しました。

 

④ 活性型ビタミンDの再考(2026, JMA J)

本論文は、日本で広く使用されている活性型ビタミンD製剤の適応を再考すべきであるとする提言です。活性型ビタミンDは血中カルシウム・リンを上昇させるが、骨形成刺激(成長・運動負荷など)がない状況では骨強化には寄与せず、むしろ異所性石灰化や腎障害を引き起こす可能性があります。実際、臨床試験では骨折予防効果は限定的であり、高カルシウム血症や腎障害のリスクが報告されています。欧米ガイドラインでは routine 使用は推奨されておらず、日本の慣行との乖離が指摘できます。適応を副甲状腺機能低下症やCKDなどに限定すべきと結論づけ、エビデンスに基づく処方への転換を強く訴えました。

 

 

References

  1. Uemura O, Hasegawa Y, Nakashima H, Otobe Y. Evaluation of eGFRs to calculate kidney function in adults with severe motor and intellectual disabilities. JMA J. 2023;6(4):481–486. doi:10.31662/jmaj.2023-0069.
  2. Uemura O, Hasegawa Y, Nakashima H, Hattori K, Koduka M, Otobe Y. Alfacalcidol-induced kidney injury in patients with severe motor and intellectual disabilities. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2024;70:365–369.
  3. Uemura O, Oshio Y, Hasegawa Y, Nakashima H, Hattori K, Otobe Y. Optimal body weights for adults with severe motor and intellectual disabilities. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2024;70:248–251.
  4. Uemura O. Reconsidering the widespread use of active vitamin D analogues for osteoporosis in Japan: a call for evidence-based prescription practices. JMA J. 2026;9(1):363–365. doi:10.31662/jmaj.2025-0401.

 

伊藤浩明先生を偲んで

あいち小児保健医療総合センターの 伊藤浩明先生 が、11月26日(水)にご逝去されました。
浩明(こうめい)先生は 3 年前に余命宣告を受けられた後も現場の第一線で活躍され、昨年は 第61回日本小児アレルギー学会学術大会の大会長として立派に大会を主催されました。

地域小児医療を牽引する存在として、そして日本の小児アレルギー診療の中心的リーダーとして、亡くなられる 1 週間前まで仕事に全力を尽くされていました。
実際、あいち小児には亡くなる 6 日前まで出勤され、2 週間前には愛知県医師会学校保健部会の Zoom 会議でもお元気な様子を拝見したばかりでした。

 

あいち小児をともに立ち上げた日々

今年 3 月には、あいち小児の初代センター長である 長嶋正實先生による桜の植樹祭があり、浩明先生にお誘いいただきました。
そのとき先生は、「いつまで寿命があるかわからない」と静かに語りながら、
来年 25 周年を迎えるあいち小児の未来を心から案じておられました。

2000 年、県庁にいらした長嶋先生からお声がけをいただき、
2001 年 11 月の開院に向けて、同年 8 月から 私と浩明先生の二人で準備が始まりました。

名古屋大学と名古屋市立大学の小児科が 一つの病院に共同で乗り入れるという歴史的な試み。
スタート当初、浩明先生は私に

「相棒が先生で良かった」
とおっしゃってくださいました。

私が 9 歳年上だったこともあり、うまく協力していけるか心配されていたのだと思います。

国立中部病院小児科から転院した患者さんを受け入れた 1 病棟から始まり、3 病棟、5 病棟へと病院は少しずつ大きくなりました。
ルール作り、教育体制、書類、業務フロー……
そのすべてを、先生と二人で議論しながら形にしていきました。

戦友であり、ライバルでもあり、そして最後はいつも浩明先生の“勝利”でした。

 

通夜で感じた、先生の「生ききった人生」

11月27日(金)の通夜に参加しました。
本当にあたたかく、素晴らしい集まりでした。

とりわけ、奥様の 美香さん のお話が胸に迫りました。
会場にいた皆さんが、浩明先生の
「3年間で自分の人生を最高のシナリオで締めくくられた」
その生き方に深く感動していました。

 

最後に

浩明先生、
本当にかっこいい医者人生でした。
みんな、心から尊敬しています。

ブラボー。

 

5つの論文と動的腎臓病学

 

  1. Uemura O. Kidney interstitial edema as the central pathophysiological mechanism of NSAKI: a call for reappraisal. Clin Kidney J. 2025;18(9):sfaf271.
  2. Uemura O. Detection of haematuria and proteinuria reflects injury to significantly different glomerular surface areas: a quantitative hypothesis. Clin Kidney J. 2025;18(8):sfaf245.
  3. Uemura O. Caution in interpreting anti-nephrin antibodies as causal in nephrotic syndrome. Kidney international. 2025;108(4):712-3.
  4. Uemura O. Biomarker kinetics reveal early underestimation of AKI severity by pRIFLE: a simulation-based study. Pediatric nephrology (Berlin, Germany). 2025.
  5. Majima H, Uemura O, Hattrori T, Fujita N, Ushijima K, Miyoshi M, et al. Coexistence of Intravascular Excess Fluid and Reduced Renal Blood Flow in the Acute Phase of Acute Post-Streptococcal Glomerulonephritis. Jma j. 2025;8(4):1234-9.

 

はじめに

上に紹介した5本の論文(4本は上村単著,1本は共著)は、テーマも対象疾患も異なりますが、共通して『腎臓病を静的ではなく、動的システムとして理解する』という視点でつながっています。血尿・蛋白尿,浮腫,AKI,ネフローゼ症候群といった臨床現象は、動的に理解する必要があります。

(1)NSAKI:腎間質浮腫が本質的病態である(CKJ 2025)(1)

NSAKI(Nephrotic Syndrome–Associated Acute Kidney Injury;ネフローゼ症候群関連急性腎障害) の本質は、腎間質浮腫による局所圧上昇と微小循環障害にあります。被膜に包まれた腎臓は膨張できず、間質に水が溜まると局所的コンパートメント症候群のように血流が圧迫されます。『血管内溢水と腎虚血が同時に起こる』という臨床現象を力学的に説明する理論です。

(2)血尿と蛋白尿は必要な損傷面積が1000倍違う(CKJ 2025)(2)

血尿と蛋白尿を比較すると蛋白尿出現が重症化のサインであることを腎臓医は良く知っています.しかしそれは単なる検査の感度の問題です.どちらも腎臓の濾過障壁である三層構造(内皮,基底膜,上皮)が全層傷つかなければ血尿も蛋白尿出ませんが,その傷害面積の広さが違います。
必要な損傷面積:血尿 0.000004%/蛋白尿 0.004%(1000倍差)。
Alportで血尿が先行する理由、初期IgA腎症が顕微鏡的血尿だけである理由、顕微鏡的血尿だけの時期に生検組織の光学顕微鏡で異常が拾えない理由がここにあります。

(3)ネフリン抗体因果説への慎重な視点(KI 2025)(3)

抗ネフリン抗体は“原因”なのか“結果”なのか。因果推論の原則に沿って再検討した論文です。因果は,①時間的先行性,②関連があること,③バイアスが調整してあること,④臨床上で矛盾がないこと,の4つが示されて初めて証明されます.確実な時間的先行性がないこと(原因と結果が逆である可能性が否定できない),抗体の半減期、ステロイド剤やrituximabの速い反応、FSGS再発の手術中発症など、抗体主因説での矛盾も含めて説明しました。

(4)pRIFLE がAKI重症度を初期に過小評価する理由(Pediatr Nephrol 2025)(4)

CrとCysCが新しいGFRに到達するまでの遅れ(t98)を定量化した研究です。基本的に1コンパートメントモデルで解析していますが,詳細はsupplementに記載しています.10歳児をモデルとしてGFR急低下(70→10ml/min)でも、Crはおよそ5日、CysCはおよそ3日かけて平衡に達します。したがって、急性期のpRIFLEは構造的に増悪期(初期)には腎機能障害を軽く評価してしまうという原理的問題を明確にしました。

(5)APSGN:循環血液量増加と腎血流低下が同時に存在していることの事実と理由(JMA Journal 2025)(5)

APSGN急性期ではBNP上昇(体液量増加)とFENa低値(腎血流低下)が共存します。これは矛盾ではなく、『内皮細胞傷害(浮腫)→ ERPF低下 → RAAS活性化 → Na再吸収亢進 → 循環量増加』という時間軸モデルで説明できます。APSGNは“prerenal AKIに近い動的病態”として理解されるべきであることを示しています。

5つの論文に共通するテーマは腎臓を動的システムとして理解する,つまり時間軸が非常に重要ということです.

『腎臓病を動的に理解すると、臨床で見える多くの矛盾が解決する可能性がある。』

 

【アクセスの仕方】

  1. Uemura O. Kidney interstitial edema as the central pathophysiological mechanism of NSAKI: a call for reappraisal. Clin Kidney J. 2025;18(9):sfaf271.
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12461143/pdf/sfaf271.pdf
  2. Uemura O. Detection of haematuria and proteinuria reflects injury to significantly different glomerular surface areas: a quantitative hypothesis. Clin Kidney J. 2025;18(8):sfaf245.
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12375914/pdf/sfaf245.pd
  3. Uemura O. Caution in interpreting anti-nephrin antibodies as causal in nephrotic syndrome. Kidney international. 2025;108(4):712-3.
    アクセスはできません.PDFの希望があれば上村までメールをください.
  4. Uemura O. Biomarker kinetics reveal early underestimation of AKI severity by pRIFLE: a simulation-based study. Pediatric nephrology (Berlin, Germany). 2025.
    https://rdcu.be/ePM2y
    このリンクで読むことはできます.プリントアウトはできません.PDFの希望があれば上村までメールをください.
  5. Majima H, Uemura O, Hattrori T, Fujita N, Ushijima K, Miyoshi M, et al. Coexistence of Intravascular Excess Fluid and Reduced Renal Blood Flow in the Acute Phase of Acute Post-Streptococcal Glomerulonephritis. Jma j. 2025;8(4):1234-9.
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12598200/
    PDFにアクセスできます.

糸球体の三層構造と赤血球尿・蛋白尿

1.糸球体の三層構造

 

糸球体の三層構造(glomerular filtration barrier)は、血液から尿細管へのろ過が行われる「フィルター」の役割を担う重要な構造です.

① 内皮細胞層(glomerular endothelial cells)

  • 構造:血管の内腔に面した細胞で、多数の小孔(fenestration、窓,約70–100 nm)があります。
  • 特徴:これらの小孔により、水分や小分子は通過できますが、血球(赤血球や白血球など)は通過できません。ちなみに赤血球サイズは直径7500nmで,応形能があるので3000nmくらいは通過できますが,構造破綻がないと内皮細胞層は通れません.
  • 役割:血液成分の初期的なふるい分け。陰性荷電(グリコカリックス)により陰性のタンパク質の通過を抑制します。

② 糸球体基底膜(glomerular basement membrane, GBM)

  • 構造:内皮細胞と足細胞(上皮細胞)の間に存在する厚い基底膜で、ラミニン、Ⅳ型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンなどから成る三層構造です。Lamina rara internaの陰性荷電は内皮細胞が作り,Lamina densaはサイズバリア,Lamina rara externaの陰性荷電は上皮細胞が作ります.
  • 厚さ:成人で約300–350 nm、小児ではこれより薄いです。
  • 特徴:分子量と電荷の両方に基づくバリア。陰性荷電でアルブミンなどの陰性分子の通過を防ぎます。サイズバリアの機能もあり4nm程度です.ちなみにアルブミンサイズは3.5~3.8nmです.
  • 役割:大きな分子(タンパク質など)について選択的に通過を防ぎます。

③ 足細胞層とスリット膜(podocyte foot processes and slit diaphragm)

  • 構造:足細胞の突起(foot process)同士が絡み合い、その間にスリット膜(slit diaphragm)が張られています。
  • スリット膜の主成分:ネフリン(nephrin)、ポドシン(podocin)など。
  • 特徴:分子ふるいの最終段階で、細いフィルターとして機能。サイズバリアの機能としては4~8nm程度です.基底膜よりは弱いですが陰性荷電を持っています
  • 役割:最も選択性の高いバリアで、アルブミンなどの高分子の通過を制限。

 

2.糸球体性赤血球尿や蛋白尿が起こるには

 

こう考えると,まず内皮細胞傷害がなければ赤血球尿は起こらず,もちろん他の2層(基底膜とスリット膜)の障害がなければ赤血球尿が起きないこともわかります.蛋白尿は基底膜とスリット膜に障害がないと起きないことになります.

  • 腎臓の寿命(三層構造の寿命)
    自分は72歳になりeGFRは58とかで,CKDステージ3です.尿蛋白はありません.少し低めですが大きく正常から逸脱していることはなさそうです.三層構造でもおそらく基底膜が特に腎寿命に影響していそうです.きっと血圧(糸球体内圧)による圧損傷にずっとさらされ,少しずつ基底膜が壊れていくことが自然経過になりそうです.
  • 菲薄基底膜病(TBMD)は何故赤血球尿が起こっているのでしょうか
    もともとは基底膜のめが粗いから漏れ出るのだと言われていました.しかし上で説明したように,基底膜のサイズバリアは4nm,赤血球は応形しても3000nmなのでとてもばかげた説明でした.だいたい三層構造全てが傷害されていないと糸球体性血尿は起きません.まず最も大きな穴である内皮細胞層ですらインタクトだと通れません.
    ちなみに,TBMDも新生児期には見つからず,3歳検尿では見つかることもあります.きっと発見率は高学年になるほど上がりそうです.これはTBMDの自然経過を示しています.基底膜のめが粗いから漏れ出るのであれば,こういうことは起きません.この経過はTBMDの腎臓の寿命を表しているのだと思います.
    TBMDは正常人より圧損傷に弱いので,きっと速度が速く基底膜が壊れます.基底膜が壊れたところは,構造破壊が起こり内皮細胞層も上皮細胞・スリット膜も障害されるのだと思います.
    赤血球が50個/cmm出るのは糸球体の全面積のどのくらいがダメージを受けているのでしょうか.赤血球数は500万/cmmです.例えばRBF:1500L/day,RPF:750L/day,GFR150L/day,一日尿量5L/day.一日に基底膜のめが粗いから漏れ出る濾過面にぶつかる赤血球数は…
    500万×1500×1000000×150÷750=1500000000000000個
    これが全部尿に出ると,
    1500000000000000個÷(1.5×1000000)=1000000000個/cmm
    つまり50÷1000000000=1/20000000です.ということは尿異常が1+程度出たとしても,糸球体全表面積の1/20000000に三層構造障害が起きているわけですが,とても腎生検で見つかるわけないですよね.
    では,その時点で三層構造障害が起きているのに尿蛋白は何故見つからないのでしょうか? 血液のアルブミンを5g/dL(5000mg/ dL)と考えます.赤血球が血液500万/cmmから50個/cmm出る状況を考えると,同じ糸球体全表面積の1/20000000に三層構造障害が起きたとしても尿蛋白は…
    5000×50÷500万=0.05mg/dLとなり簡単には引っ掛かりません.
    例えば尿±程度つまり10mg/dL程度になるには…
    20000000×0.05÷10=100000,つまり糸球体全表面積の1/100000に三層構造障害が起きれば尿蛋白がわずかに出ることになります.尿蛋白が100mg/dLくらいになれば,糸球体全表面積の1/10000に三層構造障害に障害が見つかることになり腎生検でも三層構造にわずかな損傷が見つかるかもしれません.
    TBMDが基底膜病であるにもかかわらず,蛋白尿ではなく赤血球尿で見つかる理由や,腎生検で菲薄基底膜以外に所見がない理由,そして人生全体を通して腎障害が進行していくことが分かっていただけると思います.
  • 溶連菌感染後急性糸球体腎炎(APSGN)の赤血球尿
    APSGNの病理は管内増殖性急性糸球体腎炎で,内皮細胞傷害が主体です.しかしそれだけでは赤血球尿は起こらないので,“腎外症候性急性糸球体腎炎”になります.多くはこの状態で気づかれずに終わっているのかもしれません.この病名も良くないですよね.腎内に高血圧や糸球体濾過量の低下の源があるわけですから.
    赤血球尿が起こるには部分的であっても三層全てに傷害がないとなりません.

“増補版;抗ネフリン抗体が特発性ネフローゼ症候群の原因である”はとても納得できない。

前回,まだ“抗ネフリン抗体が特発性ネフローゼ症候群の原因である”は確定していないことを説明しました.

今,第60回の日本小児腎臓病学会をやっています.そこで東京大学が報告した抗ネフリン抗体陽性の症例報告があり,血漿交換,リツキシマブ,MMFを使用して寛解に入ったとのことでした.初回PE後に抗ネフリン抗体は正常化しましたが,PE6回後に抗ネフリン抗体は再上昇してPE前と同レベルに上昇していましたが寛解状態でした.つまり,抗ネフリン抗体の多寡が病状に影響していないように見えました.また,この症例では抗ポドシン抗体も高値であり,病状には抗ポドシン抗体のほうが合致していそうでした.もしも抗ネフリン抗体が原因だとしたら抗ポドシン抗体は二次的上昇であり,逆に抗ポドシン抗体が原因だとしたら抗ネフリン抗体は二次的上昇です.

抗ネフリン抗体と抗ポドシン抗体が同時に上昇していることを考えると,別の理由でスリット膜が傷つき感作されてどちらも二次的上昇したと考えるほうが自然なように思います.

リツキシマブが有効なので,抗体病ではないかという発想になるのだと思いますが,B細胞は単なる抗体産生細胞ではありません.B細胞の機能を列記すると….リツキシマブが有効だからと言って必ずしも抗体病とは限りません.

  1. 抗体産生
  2. 抗原提示
    食細胞の一種であり,MHCクラスIIを介してCD4+(ヘルパー)T細胞に抗原提示する.
  3. サイトカイン産生
  4. 免疫記憶
    などなど

“抗ネフリン抗体が特発性ネフローゼ症候群の原因である”はとても納得できない。

“抗ネフリン抗体が特発性ネフローゼ症候群の原因である”はとても納得できない。

 

「因果がある」は,「関連がある」とは二次元と三次元くらい大きく次元の異なる事象です.「因果がある」の条件は…

  1. 関連がある
  2. 時間的先行性がある
  3. バイアスを調整されている
  4. 臨床的に納得できる

で,これらが成立してはじめて「因果がある」と主張できます.AとBが関連があるや相関があることを証明しただけで,AはBに影響しているなどと決して表現しないでください.

 

今回日本小児科学会学術集会が名古屋であって、ネフローゼ関連のシンポジウムがあり、“抗ネフリン抗体が特発性ネフローゼ症候群の原因である”があたかも事実であるかのような雰囲気でした。おそらく事実であると考える根拠は以下の通りです。

  • 抗ネフリン抗体の存在: 複数の研究で特発性ネフローゼ症候群患者の血中から抗ネフリン抗体が検出されていること。(⇒関連がある)
  • 実験的証拠: 一部の動物モデルでは、抗ネフリン抗体を投与すると特発性ネフローゼ症候群様の病態が再現されることが報告されていること。(⇒時間的先行性)
  • 治療反応性の解釈: ステロイドによる迅速な寛解は、抗ネフリン抗体の産生抑制による可能性(⇒臨床的納得)。

 

私が納得できない理由をいくつか述べてみます。

  1. 因果が逆の可能性はどうでしょうか。
    もしも別に根本的な原因があると仮定して、ネフローゼ状態となったとします。「免疫特権的部位」で守られていたネフリンは足細胞や架橋構造の傷つきとともに抗原が露出され抗原提示細胞に取り込まれて免疫が成立して自己抗体(抗ネフリン抗体)の産生がおこります。抗ネフリン抗体は病態増悪(例えばFSGSへの進行)につながる可能性はあると思います。例えば実験動物での状況は、二次病態を想定すれば説明がつきます。
  2. 臨床上納得できない理由1
    ネフローゼ症候群が再発するとステロイドを再開、または増量しますが、完解に入るまでの期間は短いと数日で2週間以上かかると反応が悪いと考えます。ちなみにIgG抗体の半減期は3週間です。数日で完解するという状況は抗体病であることとずれがあると思います。
  3. 臨床上納得できない理由2
    FSGSが移植腎再発するときに、血管吻合後の手術中に(1時間以内に)すでに再発するなど移植後早期に再発することを多く経験します。レシピエントの流血中に抗ネフリン抗体があったとして、そんなに早く再発してくることを説明できる病態を思いつきません。
  4. 少なくともIgG免疫複合体病ではない。
    IgG免疫複合体病は基本補体が絡みます。特発性ネフローゼ症候群で血中補体が下がったり、補体が優位に腎組織に染まったりということはないので、一般的なIgG免疫複合体病ではないと思います。特殊なIgGであったりするのでしょうか?
  5. もしもⅡ型アレルギーだとして….
    これは抗体が細胞表面に結合した後に,補体依存性細胞障害や抗体依存性細胞障害が起こること機序です.上記したように補体が主役という可能性は少ないです.とすると抗体依存性細胞障害ということになり,抗体のオプソニン作用で貪食細胞によってやっつけられるわけですが.これなら短時間に移植腎再発が起こることも説明できるかもしれませんが,1時間後再発を説明できるでしょうか.
  6. V型アレルギーはどうか
    Ⅱ型アレルギーの亜型で,抗受容体抗体が受容体の機能を亢進させたり,低下させたりします.標的細胞のホルモン受容体に抗受容体抗体が結合して,Ⅱ型とは違って標的細胞は破壊されず,抗受容体抗体が,ホルモンの作用をブロックしたり,リガンド用作用を呈します.バセドウ病では,甲状腺ホルモン受容体に対する抗体が,甲状腺機能を亢進させます.ただネフリン抗体は受容体ではありません。
  7. ネフリン抗体陽性者は全例ではない
    これは恐らくネフリン以外のスリット膜構成蛋白に対する抗体を考えているのだと思いますが…。抗体病のターゲット(エピトープ)はいろいろあるということで説明できるのだと思います。

 

以上から、“抗ネフリン抗体が特発性ネフローゼ症候群の原因である”はとても納得できず、“二次的に(結果として)抗ネフリン抗体が産生され、病態増悪に関連する”ならば納得できると思います。

 

まとめると、

  • 抗ネフリン抗体は、INSの一部で検出される
  • しかし、因果関係は未確立(“原因”ではなく“結果”の可能性)
  • 臨床の時間スケール・免疫病理とは矛盾も多い
  • 我々は、仮説に飛びつかず、冷静に病態を理解する姿勢が必要