重症心身障害ワンポイントレッスン(2) 排尿障害

  1. 排尿機構の発達
    なぜ子どもがおもらしをするのでしょうか?
    下に2枚の絵を載せました。図1が「おとな膀胱」で,図2が「あかちゃん膀胱」です。まず「おとな膀胱」をもつ成人の排尿行動について考えてみます。膀胱に尿がたまると、その情報はまず脊髄の神経核に伝わり、そこからリレーして大脳皮質に伝わり、尿意として認識されます。大脳皮質では尿意に基づいて「どのタイミングでトイレに行くか? どこのトイレに行くか? どのルートで行くか? 急いで早歩きで行くべきか? トイレのどの便器で排尿しようか?」など、さまざまな環境要因とやり取りします。結果、適切な時間に適切なトイレを選択し、目的とする便器に到達したら衣服を下げ、「さあ、おしっこしよう」となるわけで、その大脳の指令は先ほどと逆方向のリレーで脊髄から膀胱排尿筋と尿道括約筋に伝わって排尿が起こります。
    つぎに、あかちゃん膀胱の場合を説明します。膀胱におしっこがたまると、おとなの場合と同じように、まず脊髄の神経核に情報が伝わります。ただし、その先には大脳皮質との連携がなく、その場で反射のループが起こり、尿意も感じないままに膀胱排尿筋と尿道括約筋に刺激が伝わって排尿が起こります。……このメカニズムは「膝蓋腱反射」と同じです。
    あかちゃん膀胱からおとな膀胱への移行は発達につれてすこしずつ進みます。完全に移行するのは一般的に3〜4歳頃と言われています。つまり成人のみなさんの多くが日常行っている排尿様式を確実に実行できるようになるのは、早くても三歳以降ということです。発達の逆の老化は、大脳皮質のコントロールが効かなくなり、「あかちゃん膀胱」に戻っていっておもらしが始まります。このコントロールが効かない状況を「過活動膀胱」と呼びます。あかちゃんも、おじいちゃんおばあちゃんも生理的過活動膀胱です。

  2. 多くの重症心身障害児者の排尿
    多くの重症心身障害児者は大脳皮質にダメージを受けています。脊髄にダメージがあることは少ないので、あかちゃんや老人と同じで「あかちゃん膀胱(過活動膀胱)」の状態であることが多く、意図に反して膀胱が充満すると勝手に反射的に排尿します。図2の状態です。これは年寄りの過活動膀胱も同じです。このような排尿は、オムツを必要としますし、わずかに尿路感染の頻度は増えるかもしれませんが、基本的に腎臓にダメージを与えることはありません。このような場合に排尿間隔があく場合の多くは尿量が少ないわけで、脱水気味のことが多いです。水分を与えることで尿は出てくると思います。導尿してはいけないわけではないのですが、必要のないことが多いです。絶対にいけないのは利尿剤を使うことです。尿は出ると思いますが、脱水気味だったわけですから更に脱水になってしまいます。

  3. 脊髄以下にダメージのある場合
    図3の状態です。脊髄までの反射弓が働いていません。このような状況を狭義の神経因性膀胱(脊髄から膀胱に至るまでの末梢神経の障害)と言います。この場合は膀胱内が高圧となり、腎臓を傷め、尿路感染も起こしやすくなります。何らかの尿路ケアが必要となります。重症心身障害のごく一部にこのような患者がいますが、殆どは違います。

  4. 狭義の神経因性膀胱に対する介入
    多くは膀胱内が高圧となるので排尿させて減圧が必要です。
    (1) 圧迫排尿×
    下腹部の膀胱にあたる部分を外から手で圧迫することで排尿させる方法ですが、膀胱内が高圧になって腎障害につながるので、やってはいけません。
    (2) 持続導尿×
    急性期に使用されますが、慢性的な管理には不向きです。持続導尿を続けると膀胱は合目的的に小さくなります。そうすると導尿をやめた時にあっという間に充満し高圧となります。ずっとカテーテルが入っているので感染も起こします。腎機能も悪くなってしまいます。もしもやるとしたら、夜間だけ持続導尿をして、昼間は下記のCICをやる方法です。
    (3) 清潔間欠的自己導尿(CIC)
    処置(医療的ケア)としては唯一正しいやり方です。膀胱容量に合わせて、一日の中の回数を決めます。オムツに漏れるようなら回数を増やすべきです。
    (4) 外科的方法
    膀胱皮膚瘻:膀胱と皮膚に適切な大きさの穴をあけて、ある程度の膀胱内圧になったらその穴から自然に排泄されるようにします。穴の大きさなど外科医に手技的な熟練が必要です。膀胱カテーテル瘻と違って膀胱が小さくならないようにできます。腎傷害も起きにくいし、感染も起きにくいです。
    (5) 薬物療法
    膀胱を柔らかくする(コンプライアンスを上げる)ための治療薬があり、腎臓を保護してくれます。代表的なものは抗コリン剤という種類の薬で、ポラキス®バップフォー®、ベシケア®などがありますが、欠点として不整脈(QT延長による)を引き起こす可能性があります。失神などを起こす可能性があるので、投与前に心電図をとっておくのが良いかなと思います。

  5. 利尿剤の使用
    尿量減少の場合,なぜ尿量が減少したかを考えなくてはいけません.尿量減少の最多の理由は,腎血流の低下であり,その最大の理由は循環血漿量の減少(脱水)です.この状態で利尿薬を使用すると更なる血管内脱水を助長することになり,腎障害をはじめとした臓器障害を引き起こす可能性があります.ループ利尿剤を使用する正当な理由は,細胞外液量(特に血管内液量)の過剰であり,決して尿量減少ではありません.

これらを考えながら、重症心身障害の排尿障害への対応を適切に行いましょう。

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