新型コロナウイルス感染診断のためのPCRや抗原迅速検査をもう一度考える

私の地域では,医師が保健所に依頼してもPCRを受け入れてくれることは稀です.最近も高熱4日間持続した2人のお子さんは断られました.PCR,抗原検査,そして抗体検査が早期に整備されるとよいと思っています.しかし,PCRや抗原検査がむやみに積極的になされることはやはり避けるべきです.感染急性期の全数把握などはもってのほかです.むやみに積極的に行うことの問題点を整理してみます.

 

  1. 未感染陽性者(偽陽性者)数が増加してしまう.
    「積極的なPCR検査は真の新型コロナウイルス感染者を爆発的に増やす」に示した通り,偽陽性者数は検査の特異度と検査総数に比例します.急性に行われるPCRや抗原検査の要否は現場の臨床医に任せるべきだと思います.この多くの偽陽性者が真の感染者と接触することがなければよいですが,陽性者が増えれば増えるほどそのリスクは高くなります.
  2. もしも全数把握することになった場合を想像してみよう.
    米国スタンフォードの抗体調査では確認されている人の50~75倍でした.今東京の総感染者数は4800人ですが,もしも同様の状況ならば実際の感染者数は20万人越えです.一日の発生数の最高は201人でした.計算すると1万人/日です.これらを医療機関で受け入れるとしたらと想像するとぞっとします.
    大阪市立大学の調査では人口の1%が陽性ではないかと考えられています.大阪の人口900万人と考えると,総患者数は9万人(確認されているのは1700人)で,50倍ということですね.一日の発生数の最高は92人でした.計算すると4500人/日です.上記の東京のデータもまんざら誤りではないように思います. 考え直してみると,新型コロナウイルスはそういう病気だということだと思います.
  3. 大阪モデルの“PCR検査で陽性になった人の割合(1週間の平均値)を7%未満とする”は正しいか.
    統計学の常識は“関連があることは因果があることを示すための1つの条件に過ぎない”ということがあります. 「臨床研究の進め方ー基礎編ー」の中でも示しましたが,AとBの間に因果関係がある(A→B)というのは,以下の4つが成立することです.
    ①AとBの間に明瞭な関係があること
    ②時間的先行性(AはBに時間的に先行している)
    ③関連の普遍性がある(時間,場所,対象の選び方などによらない) AとBの共通の原因となりうる要因(交絡)を統制しても関係が見いだされる
    ④関連の整合性がある 医学・生理学的観点からも矛盾なく説明できる
    大阪モデルの根拠は,「人口で補正した死亡者数とPCR陽性率との間には明確な相関がみられた.」ということになっています.このことは上記の①を示していることにしかなりません.②を考えてみましょう.「PCR陽性率が低い十分なPCR検査ができている国はCOVID-19による死亡者数が少ない」のか,「COVID-19による死亡者数が多いような感染爆発が起こっている国は十分なPCR検査ができなかった」のか,わからないのではないでしょうか.感染爆発が③の交絡であったとも考えることができます.どちらの説明が妥当だと思いますか? 微妙な感じはしませんか.個人的には④から考えると,7%未満は原因ではなく結果ではないかと思います.

  4. 今日感染していなくても明日感染しているかもしれない.

 

新型コロナウイルスのような中くらいの重症度の感染症の場合,急性期の感染者数全数把握は不可能だし戦略としても正しくないと思います.このような場合,以前も述べましたが,エンドポイントは感染者数ではなく死亡者(または重症者)数であり,これを減らすことを戦略のゴールにしなくてはなりません.

急性期に医師が必要と考えたPCRや抗原検査を円滑にできる(+有効な治療薬使用可能な)体制を期待します.

 

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