重症心身障害ワンポイントレッスン(1) 発熱とクーリング、解熱剤

  • 発熱
     発熱は生体防御反応の一つであり、発熱は生体に決して不都合なことばかりではない。発熱中枢のサーモスタットの設定温度は感染症等によって上げられ、実際の体温がその設定温度に到達するまで①四肢末梢の血管を収縮させ、②振るえる(振戦)ことによる筋の摩擦で熱を産生することによって目的を遂げる。逆に実際の体温が設定温度より上がってしまう(解熱時など)と、①末梢血管を開き、②汗をかいて熱を放出する。
     感染症時の発熱は病原菌と闘っている時にでるエネルギーであり、生体の抵抗力を高める作用もあり発熱自体が悪い影響を与えることはない。また蛋白質が変性するのは42度以上と言われており、自分が発する発熱により脳に障害がでることはまず考えられない。
     発熱の大部分を占めるウイルス感染症(いわゆる風邪)に抗生物質は効果がない。つまり発熱の多くは抗生剤は不要である。インフルエンザやヘルペスウイルス以外に抗ウイルス剤は存在せず(COVID-19にはあることになっているが…)、単なる対症療法でよくて病院に来て風邪薬をもらって風邪が早く治るということない。では何故医者にかかるかというと、ウイルス感染以外の重大な発熱性疾患を否定するためである。もちろん、原因検索が最優先されることは言うまでもない。

  • 発熱の症状緩和
    1) 冷却(クーリング)
     自分が発熱した経験のある人は、熱の上がるとき、熱の上がりきったときを良く思い出して、利用者にもできるだけ快適な状態を作る。しゃべれる利用者には、寒いといえば暖かく、暑いといえば涼しくしてあげればよい。まだしゃべれない利用者の場合は、手足が冷たく悪寒戦慄があれば(寒いといっているのです)毛布などで温め、熱が上がりきって手足が熱くなれば(熱いといっているのです)薄着にさせて涼しくする。本人が嫌がるような冷却はしてはいけない。自分がインフルエンザで発熱し震えているときに、裸にされたり冷たいタオルで身体を拭かれたりしたら苦しいですよね。
     繰り返し説明するが、熱の上がるとき(設定体温より実際の体温が低い)は寒いといい手足が冷たく悪寒戦慄があり、熱の上がりきったとき(実際の体温は設定体温と同じか少し高い)は暑いといい手足が熱くなって発汗する。設定体温は後述するが、視床下部サーモスタットがあって通常は37℃に設定されている。
    2) 解熱剤の使用
     解熱剤の使用は、その利点と副作用のバランスを考慮して行わなくてはならない。解熱剤の上手な使用によっても熱性痙攣を抑えることはできないと考えられており、利点はほとんど“苦痛の緩和”のみである。原疾患の診断が遅れると考えられる場合や、使用により危険性が増すと考えられる場合は使用すべきではない。抗生剤と解熱剤は、長期使用により薬剤熱を引き起こす代表的な薬剤である。
     解熱剤を使用しても3~4時間後には体温は再上昇してもともとの経過に戻ってしまう。解熱剤がもともとの感染症に効くということはない。解熱のみを目的に積極的に解熱剤を使う必要は全くなく危険である。持続して平熱に下げようと考えるのはばかげている。高熱による消耗や食欲不振を和らげるために使用し、例えば経口摂取(主に水分)が乏しい場合に3~4時間元気にしてあげて十分摂取させるような場合にはじめて意味があり、入院して点滴しているような場合にはあまり意味がない。風邪ひき(ウイルス感染)の場合に、解熱剤がその経過を短くすることはないことを十分理解して使用しよう。

 

  • 体温コントロール困難
     体温コントロールの中枢は、視床下部にある。視床下部は交感神経・副交感神経(自律神経)機能や内分泌を統合的に調節することで、生体の恒常性維持に重要な役割を果たしている。重症心身障害を持った利用者の多くはここには障害がなく体温調節は可能である。しかし、障害が強く視床下部にも障害が及ぶ場合、特に汎下垂体機能低下症の患者などは体温調節が難しいことが多い。中枢性の甲状腺機能低下や中枢性の副腎機能低下などが併存していることが多い。
     このような場合は、環境が寒ければ体温は下がり、環境が暑ければ体温は上がり、変温状態となる。発熱のところに記載した原則は無効で、スタッフの対応の仕方で熱は上がり下がりするので細かい調節が必要である。何故37℃くらいに体温を調節すべきかというと、全身の組織の数多くの酵素(細胞が生きていくために働いている)が最も有効に働いてくれる温度がこのあたりだからである。
     解熱剤は、体温中枢の設定温度(サーモスタット)を変更する(下げる)ということで作用する。視床下部に障害がある場合は解熱剤は効かないか効きにくい。むやみに使ってはならない。