腎臓小児科医のためのワンポイントレッスン

 

 

「腎臓病小児のマネジメント 実践のための数学的アプローチ」という本を,2011年に初版,2016年に第二版を上梓しました.是非とも腎臓小児科医は読んでいただけると嬉しいです.

しかし,言い足りないことはたくさんたくさんあります.日記的に上げていき,若手の腎臓小児科医に読んでもらえると嬉しいです.だから,時々更新していきます.

 

 

2020年11月20日

治療方針を決定するのは,医師ではなく患者家族である

これは腎臓小児科医に限ったことではありません.医師がやるべきは,患者家族が決定できるようにという意識をもって自分の知っていることを全て伝えるつもりで情報提供することです.

全ての意思決定は患者家族だと思いますが,生死にかかわるような場合は特にそうだと思います.がん患者だけではなく,腎臓小児科領域でもそのような場面に遭遇します.医師は医療的な知識は一般の方より当然広く深いと思いますが,死生観,人生観,そして人間としては一般の方より優れているとは限らず劣っていることも多々あります.だからこそ,十分な情報を伝えて,患者家族に彼らの人生観に従って決定していただくのが正当なことだと思います.医師の治療に対する考え方はしっかり伝えますが,それに従わず,別の選択をされることは正当なことです.驕りを捨てましょう.驕りは,正当なプライドのない人の態度です.

 

腎臓病小児のマネジメント 改訂第2版 実践のための数学的アプローチ (臨床クリップ)
 

 

2020年11月26日

Ca, P再考(骨粗鬆症や骨ミネラル代謝異常)

 

自分は重症心身障害児者施設にいますが,最近2例の急性腎障害(AKI)を起こした事例があり,どちらもアルファロール投与を開始したために起こりました.数カ月で起こったわけですが,アルファロール中止とともに腎機能は改善傾向となりました.カルシウム高値が両例共に見られました.1例は腎実質に異所性石灰化がありました.

 

  1. Ca,PとビタミンD
    ビタミンDの作用は,小腸におけるカルシウム吸収や腎臓におけるカルシウムの再吸収を促進して血中のカルシウム濃度を一定に保つことで,結果的に骨へのカルシウムの沈着を促します.つまり,ビタミンDには造骨に向けての骨への直接作用はありません.ところが,血中のカルシウム濃度が低下した場合には,血中カルシウム濃度を保とうとして,活性型ビタミンD(1,25-(OH)2ビタミンD)の合成が高まり,PTHと共同して骨からカルシウムを溶出し,血中のカルシウム濃度の恒常性の維持に寄与します.つまりCa不足の状態では,ビタミンDは骨吸収を起こして骨塩量を下げる可能性があります.これはビタミンDの骨への直接作用です.この時,活性型ビタミンDの血中濃度は通常の状態に比べて高い濃度を保っています.実は,活性型ビタミンDである1,25-(OH)2ビタミンDはビタミンというよりホルモンと考えたほうが良いということです.
    もう一度整理すると,ビタミンDの活性化刺激は低カルシウム血症であり,ビタミンDの効果は血中カルシウム濃度を上げることで,決して骨塩量を増やすことではないということです.すなわち,ビタミンDの骨形成作用は血中カルシウム濃度上昇を介した間接作用で,骨吸収作用は直接作用ということになります.骨形成が必要と生体が考えているかどうかとビタミンDの動きは別次元です.
    少し別の視点で考えてみます.細胞外液のCa,Pの関係はシーソーのように,Caが高いとPが下がり,Caが低いとPが上がります.PTHが働こうがカルシトニンが働こうがこの原則は保たれ,PTHが上昇するとCaが上昇してPは低下します.生体内で細胞外液中のCaもPも上昇させる物質は活性型ビタミンDのみです.そしてCaもPも上昇すると,骨であろうがどこであろうが(心血管系が多いですが)石灰化が進みます.後で説明しますが正所性石灰化も異所性石灰化も起こるわけです.その時に生体が骨を作ろうと考えていれば正所性石灰化を中心に石灰化が起こります.
  2. 生体が骨を作るかどうかを決める因子
    子どもたちは,十分な栄養が入る状況下では,遺伝子に規定された最終身長を獲得します.この成長という生理は骨の作り替えとして作動します.成長過程においては,成長ホルモン,性ホルモンなどの分泌を遺伝子によって設計されたプログラムによって行い,そのプログラムに規定された身長になるわけです.後述しますが,成長ホルモンや性ホルモンによって骨の作り替えが命令されるわけです.骨側の感受性も遺伝的に規定されています.そして成長スピードが大きければ大きいほどCa,Pの必要量が増すわけで,成長期には1,25-(OH)2ビタミンDが合目的的に高くなっているはずです.つまりCaがたくさん使われ,補充するために1,25-(OH)2ビタミンDは高くなるわけです.前述したようにホルモンですから.骨折時にも同じようなことが起こるはずです.
    骨粗鬆症について考えてみましょう.骨細胞はスクレロスチンと呼ばれる物質をもって伝達し作り替えを指示します.スクレロスチンは,「骨芽細胞」の数を減らすという作用があります.スクレロスチンは骨量を減らすわけで,骨粗鬆症を引き起こします.骨細胞には「骨にかかる衝撃を感知する」という働きがあり,衝撃(重力を含む)があるかないかによって,新しい骨を作るペースを決めています.骨に衝撃がかからない状態が続くと,骨細胞がスクレロスチンを出して,骨芽細胞の数を減らして骨形成をやめて骨粗鬆症を引き起こします.これも合目的的です.このような状態で血中Ca,Pが高くなると,正所性に石灰化は起こり得ず異所性石灰化に進みます.
  3. ビタミンD欠乏で起こること
    ビタミンD欠乏症で低リン血症がおこると、骨の石灰化に必要なハイドロキシアパタイトが形成できなくなり、骨の石灰化不全を生じます。この低リン血症による骨の石灰化不全が、骨端線が閉鎖する前に起こるとくる病を発症します。くる病では,低身長,そして下肢に負担がかかると足の骨が変形します。成人では骨の石灰化不全から、柔らかい類骨という成分を多く含む骨ができ、この病態を骨軟化症といいます。骨粗鬆症は骨量が減りますが,骨軟化症では骨量は減らず骨量に占める類骨が比率的に増えて石灰化骨が減っている状態です.
  4. 骨粗鬆症ビタミンD
    上記の通り,ビタミンD欠乏と骨粗鬆症とは別次元の病気であり,ビタミンDが骨形成に直接かかわるわけではありません.骨形成が起こるような状況(成長時や骨折治癒時)にCaが不足しないように1,25-(OH)2ビタミンDがあたかもホルモンのように増加して血中Caを増加させて助けるといったイメージです.骨粗鬆症は,生体として合目的的に骨塩量を下げる状態ですから,ビタミンDを投与したからと言って骨形成には傾きません.不要にCa,Pが上がるわけですから,骨以外に石灰化が起こります.ビタミンD骨粗鬆症に有効ではなさそうであることはJAMA[1]から論文が出ています.
  5. 重症心身障害者や水泳選手の骨粗鬆症
    重症心身障害者も水泳選手も重力がかからず,骨に衝撃がかからないという点で骨形成が起こりにくく骨粗鬆症が起こります.これは普通に考えれば合目的的で,水の中で生活することや寝たきりであるがために骨を強くする必要がない状況が起こってしまっています.この状態でビタミンDを摂取し血中Ca,Pを上昇させると,骨が必要としないために全身様々なところで石灰化が起こってしまいます.データは知りませんが,水泳選手にビタミンDを飲ませても骨粗鬆症を防ぐことはできないと思います.
  6. 生理的にCa,P値が高い状況(含.骨折)と正所性石灰化
    実際に血中Ca,Pが生理的に高い状態は乳児期(1年間に身長が25㎝伸びます)や思春期(ピークで1年間に10-12cm伸びます)で,あとは骨折の治癒期です.測定したことはありませんが,この時期はきっと1,25-(OH)2ビタミンDが高いと思います.このような場合には血中Ca,Pが高くても正所性石灰化が起こり異所性石灰化は起こりません.しかし,成長が止まった後に同じくらい血中Ca,Pが高い状態が起こると正所(骨)は要らないので他の場所に石灰化が起こることになります.
    因みに何度か経験したことがあるのは,小児腎臓外来に肉眼的血尿で来られたお子さんたちで,非糸球体性血尿に高カルシウム尿症があり近い過去に骨折を起こしているというような症例で,骨折が治ると高カルシウム尿症とともに血尿もおさまるといったものです.決して少なくないので,意識していると必ず経験します.
  7. 異所性石灰化
    これは自分の30年ほど前の経験です.7歳の腹膜透析中の女児が移植を希望して転院してきました.転院時にCTで確認すると心臓,脳,大血管,腎臓に石灰化があり,Ca・P積は95以上でした.長期にアルファロールと炭酸カルシウムを内服していました.2週間後にプレールームでテレビを見ていて突然亡くなりました.剖検をさせていただいたところ心筋にびっしりとカルシウム沈着がありました.
    当時の教科書の慢性腎不全のところに,処方例としてアルファロールと炭酸カルシウムの量が書いてあり,それに従って投与されていたわけです.決して前医を責めることはできません.ただ当時感じたのは,腎臓小児科医と腎不全小児科医はきちんと分けなくてはいけないと感じました.冷静に考えると,末期腎不全は腎臓がない(腎臓の働きがほぼ無くなった)時に起こる全身病です.それなのに腎臓に特化されたお医者さんが見るのは奇妙ですよね.30年前の話でしたが,今はあってはならないと思います.この管理ができないとしたら腎不全の医者はやめて,腎臓小児科医として頑張っていただくべきです.次に詳しく述べます.
  8. 骨ミネラル代謝異常の管理
    CKDステージ4や5(かなり末期腎不全に近い状態)では,骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)が起こってきます.二次性副甲状腺機能亢進症(Ⅱ°HPT)や腎性くる病などが病態としては起こるわけですが,腎からのCaの喪失や,腎でのビタミンD活性化(1位に水酸基をつける)ができないためです.
    腎不全小児科医としてCKD-MBDを管理するのに最も重要なことは何でしょうか? 副甲状腺機能亢進症やくる病も重要な合併症ですが,比べ物にならないくらい大切な合併症(医原病)を絶対に防ぐことです.それが異所性石灰化です.私が経験した症例のように心血管系を中心に起こし致死的となります.
    腎性くる病は何年かかけて起こってきて,ひどいO脚を起こした低身長の原因になりますが,成長している間は修正の効くO脚です.命にかかわることもありません.ということは腎性くる病の治療をするためにビタミンDを投与することはありません.ビタミンDには,PTHを抑制する力があるのでよく使われます.しかしこれも慌てることはなくゆっくり補正していけばよいわけです.
    最も重要なことは,高カルシウム血症アルブミン値に注意してくださいね)を絶対に起こさないこと,Ca・P積の高い値を放置しないことです.つまりビタミンD製剤の投与やカルシウム製剤の投与で,医原的な異所性石灰化を起こさないことです.ここには食餌性にPの摂取に気を付けることも含まれます.
    高カルシウム血症や高Ca・P積を起こすくらいならば,Ⅱ°HPTや腎性くる病のほうがずっとずっとましです.そして,骨ミネラル代謝異常の管理に自信がないならば是非とも腎不全小児科医(専門医)に紹介しましょう.

 

 [1] L.A. Burt, E.O. Billington, M.S. Rose, D.A. Raymond, D.A. Hanley, S.K. Boyd, Effect of High-Dose Vitamin D Supplementation on Volumetric Bone Density and Bone Strength: A Randomized Clinical Trial, Jama 322(8) (2019) 736-745.

 

 

 

2020年12月5日

DES, BBDの定義(排尿障害)

 

関連するたくさんの用語の定義の再確認です.

 

その前に,生理的な膀胱排尿筋と尿道括約筋(括約筋群の一部)の組み合わせを理解しておく必要があります.
 蓄尿相:膀胱排尿筋の弛緩 + 尿道括約筋の収縮
 排尿相:膀胱排尿筋の収縮 + 尿道括約筋の弛緩

このバランスが崩れるような状況を,排尿筋括約筋協調不全(detrusor sphincter dyscoordination:DSD)と言います.

  1. 無抑制収縮uninhibited contraction:UIC
    新生児や乳児は大人と違い,排尿は脊髄での反射です.成熟して大人の膀胱(完成は3~4歳)になると排尿を,大脳を介して随意に行います.しかし,成熟してから不随意の排尿筋収縮が蓄尿期に起こる病態があります.これを無抑制収縮といいます.大脳からの情報が何らかの理由で部分的に途絶えているのだと思います.
  2. 不安定膀胱unstable bladder
    urodynamicsで無抑制収縮を確認すると不安定膀胱と診断されます.これは広い意味ではnonneurogenic neurogenic bladderに含まれますが,そう呼ばれることは少ないと思います.Urodynamicsで診断するという欠点があります.
  3. 過活動膀胱overactive bladder:OAB
    不安定膀胱の臨床病名と考えればよいと思います.尿意切迫感,尿保持姿勢(尿を我慢する姿勢),切迫性尿失禁などの臨床診断で診断されます.膀胱の成熟の異常で,大脳の抑制が弱く脊髄での反射が残っている状態で,老年期の過活動膀胱を考えるうえでもこの考えは役立つと思います.これらは蓄尿相の異常です.
  4. 機能異常的排尿dysfunctional voiding:DV
    これは排尿相の異常で,排尿時に弛緩しなければいけない尿道括約筋が収縮してしまうような状況です.間欠的な排尿となり残尿が見られます.過活動膀胱があると切迫性尿失禁が起こりますが,この時に尿失禁を防ごうと思うと意図的に尿道括約筋を収縮させなくてはなりません.尿道括約筋の収縮は括約筋群として直腸括約筋の収縮と付随します.これは今回の主題と関連します.これらは括約筋群の肥大や,加えて狭くなった尿道を通して排尿するために膀胱排尿筋の肥大が起こります.柔らかいこと(コンプライアンス)が膀胱の性質としては重要ですが,膀胱排尿筋の肥大は低コンプライアンス膀胱の原因となります.
  5. 機能的排尿排便異常dysfunctional elimination syndrome:DES
    上記の機能異常的排尿に絡んで,括約筋群の収縮の常態化と肥大が起こることにより便秘(排便回数の減少ではなく硬便の貯留)が膀胱を圧迫刺激し過活動膀胱を引き起こすという悪循環の状態をDESと呼びます.1998年に提唱された概念で,私たちのグループは2000年前後から昼間尿失禁の多くに対しまずこの病態を考えるようになりました.この病態では,排尿排便の機能異常が起こっています.これは,VURの自然消失を障害し,尿路感染をおこすリスクファクターとなります.この悪循環を解くには便秘のコントロールが有効です.
  6. 膀胱腸管機能障害bladder bowel dysfunction:BBD
    これは後述しますが膀胱直腸障害とは全く違います.日本語訳は使用されないのでBBDと言ったほうが誤解を生まなくて良いと思います.2010年から米国泌尿器科学会で使われはじめた用語で,過活動膀胱(蓄尿相),機能異常的排尿(排尿相),DES(便秘との悪循環)という病態を総括した概念です.DESと同義であると考えて問題ありません.BBDを合併する頻尿,昼間尿失禁,自然治癒しないVUR,繰り返す尿路感染症に対して便秘治療は最優先されるべき治療法です.
  7. 便秘のコントロールが有効な病態
    BBDを想定できる,頻尿,昼間尿失禁,自然治癒しないVUR,繰り返す尿路感染症(急性巣状細菌性腎炎を含む)などが,便秘のコントロールを試してみる価値のある病態です.臨床的な経験からして,これらすべての病態に対して有効である可能性は十分にあります.
  8. 便秘治療
    便秘に浣腸や座薬を使うか,下剤を使うかです.少なくとも初めは下剤を使うべきではありません.効果が明確でないことが一つありますが,下剤には危険があります.直腸に硬便があり排便できないのに下剤により腸管内で下痢するために,脱水に気付くのが遅れる可能性があります.最初は浣腸や座薬で治療するのが安全です.頻尿や昼間尿失禁には,連日→隔日に浣腸や座薬を使用して効果が出るのに2~6週程度です.
  9. (番外)非神経性神経因性膀胱nonneurogenic neurogenic bladder
    器質的神経異常がないにもかかわらず排尿筋括約筋強調不全DSDなどの神経因性膀胱の症状や所見が認められる状況をいう.大脳と脊髄の連絡の成熟が遅いことと,愛着障害など家庭環境の問題との明確な説明はないが,後天的に発生した下部尿路通過異常であると考えられている.特に愛着障害など家庭環境に原因がある場合にHinman症候群と呼ばれることが多い.厳しいトイレトレーニングも誘因となる可能性がある.その他,胎内でのmassive VURも,排尿が尿管腎盂へ流れて尿道方向に流れないことにより誘因となるともいわれている.nonneurogenic neurogenic bladderは膀胱機能の廃絶から腎機能障害へと進む可能性があります.
    BBDとの異同はどこにあるかというと重症度であり,膀胱機能の廃絶が起こるとは考えられていない.
  10. (番外)膀胱直腸障害
    BBDの日本語訳に「膀胱直腸障害」が使われることがあります.しかしBBDはdysfunctionです.膀胱直腸障害は,何らかの理由で,脊髄や脳に障害を負うことなどにより,排尿や排便に関わる神経や筋肉がうまく機能しなくなった結果生じる症状です.機能的か器質的かに言及していませんが,脊髄の損傷などでは膀胱の障害と直腸の障害が同時に生じることが多いことから一括りにして「膀胱直腸障害」と表現されます.BBDと混同してはいけません.

 

 

2020年12月14日

CKDと食塩摂取量

  • 腎機能正常者に許される(血清Na濃度を維持できる)食塩摂取量は?
    WHOでは最低必要量は200mg~500㎎/日と言われています
    昔は日本人の食塩摂取量は多く,特に北日本は30g/日でした.
    これらを合わせて,腎機能正常者が血清Na濃度を維持できる食塩摂取量はおよそ0.3~30g/日と考えられます.
  • 昔から経験的に末期腎不全に近づいた成人の食塩摂取量は2~8g/日とすべきで,これ以下だと低ナトリウム血症に,これ以上だと高ナトリウム血症や溢水になることが知られています.これは正常者と比較すると許容範囲が圧倒的に狭くなります.
  • 一日に糸球体濾過される(原尿中の)食塩量は,血清Na濃度が140mEq/Lと考え,しかもGFRは120ml/min/1.73m2(1.73m2の人の一日の原尿量は170L程度)と仮定すると1400g/日くらいです.
    140×170×58.5÷1000≒1400g/日
  • では,末期腎不全に近い(GFRは10ml/min/1.73m2)成人を考えます.体表面積を1.73m2とすると原尿量は14L程度で,血清Na濃度が140mEq/Lとすると,一日の原尿中の食塩量は115g/日程度です.
    140×14×58.5÷1000≒115g/日
    前述したように,末期腎不全に近い成人の食塩摂取許容量が2~8g/日と考えると,尿中にも同量出るわけですから,尿細管の再吸収率は…
    最大:1-(2÷115)=98.3%
    最小:1-(8÷115)=93.0%
    つまり,末期腎不全になるとFENaで考えてみると93~98%くらいにしか調節できなくなります.
  • 正常成人と比べると生命を維持できる最少食塩摂取量を0.3g/日と考えると,尿細管の最大再吸収はそれぞれ99.98%程度となるので,このくらい尿細管機能は落ちてしまうことになります.
  • 末期腎不全に近づいた成人の食塩許容摂取量は2~8g/日なわけですが,小児を体表面積当たりで考えると,末期腎不全に近づいた小児の食塩許容摂取量は1~5g/m2/日程度です.一つ例を出すと,例えば10歳,体表面積1m2の小児がいて,5g以上の食塩を摂取すると高ナトリウム血症になったり溢水になったりするということです.

ただし,低形成/異形成腎の小児は塩類喪失傾向にありますから,この議論からはずれる場合もあります.

 

 

2020年12月14日

血管内溢水の評価に心エコーの感度が悪い理由

 

これは,体積と距離,面積と距離との問題です.

血管内溢水時に血管系の長さは伸びず太さだけ太くなると仮定します.つまり以下の図の通りです

 

f:id:uhomme:20201214095411p:plain

血管系と断面積

もしも,血管内に10%の溢水が起こったとします.長さは変わらないと仮定したので,断面性が1.1倍になったということです.ということは直径(半径は)√1.1=1.05倍です.

正常のIVCd:0.70±0.21 cm/m2と言われています.もし,IVCdが0.70⇒0.90となったとします.そうすると循環血液量は少なく見積もっても(0.90/0.70)の2乗ですから,1.65倍になります.10歳女児で体表面積1m2を考えると,循環血液量は30㎏×0.08で2.4L程度です.Normovolemiaで2.4Lであった循環血液量が4LくらいにならないとIVCdは正常範囲を超えてこないことになってしまいます.おかしいですよね. IVCdの正常値が0.70±0.21 cm/m2という考え方でなくて(これはたくさんの個体の平均ですから),個々に違うと考えたほうが良さそうです.

医者が測るIVCdよりも,生体が感じるBNPなどのほうが感度は良いのは当然かなと思います.