ワクチン関連死

75歳の姉から,“ファイザー社のワクチンで190人死んでる”ことを理由にうつことを迷ってるとメールがありました.こいつは,やっぱりバランスよく考えることができないやつだと呆れながら,医療関係者ではないから仕方ないかとも思います.2つの問題があると思います.

  • なんで報道は正確に情報を伝えないで,不安をあおるようなことをするのだろう?
  • 医療関係者でなければ,私の姉と同じかもしれない.

 

そこで整理しておいたほうが良いと思ったので,こうして書いています.

  1. ワクチン接種後の死亡の定義
    明確ではないのが残念ですが,厚労省の2月17日から6月4日までの報告分をみると最も接種後の間隔があいているのが25日なので,大雑把に言うと1ヵ月以内に亡くなったものなのでしょう.
  2. ワクチン接種後の死亡者数
    この厚労省の調査では,108日間で196人(110日で200人とします)です.
    高齢者が163人です.
  3. ワクチン総接種数
    累計接種回数約2150万回
    (1回目約1600万回,2回目約550万回)
  4. 死亡率
    年間死亡者数はおよそ140万人,日本人口は1億3千万人とします.
    単純に計算すると,日本人が1年間に死亡する確率は約1%です.
    これを1ヵ月に換算すると約0.1%です.
    つまり日本人が1000人いると1カ月で1人死亡するという計算です.もちろん圧倒的に高齢者が多いのでしょう.
  5. ワクチン死亡率
    1カ月当たりの接種回数は500万回と考えます.1カ月当たりのワクチン接種後の死亡者数は50人であり,ワクチンをうった人が1カ月以内に死亡するのは0.001%ということになります.
    つまりワクチンをうった日本人が10万人いると接種1カ月以内で1人死亡するという計算です.
  6. ワクチンをうつことで死亡者が増えているか?
    上2つを整理すると…
    日本人が10万人いると1カ月で100人死亡するところが,ワクチンをうつことで101人なくなる可能性があるということです.もちろんこの1人の増加もワクチンを接種しなくても亡くなった人かもしれませんが,仮に亡くなった人が全てワクチンのせいだとしても,この程度です.そしてあなたが10万回ワクチンを接種したら,そのために死亡する可能性は1回以下ということになります.

 

ファイザー社のワクチンで190人死んでる”という報道をするならば,視聴者の不安を煽らないように,理解できるように説明してほしいものです.

腎臓小児科医のためのワンポイントレッスン(2)

逆流性巨大尿管症とhigh grade VUR

 

膀胱尿管逆流症(VUR)は小児の上部尿路感染症の原因として最も多いものです(最も重要なものではありませんが…).そしてグレード分類があって,排尿時膀胱尿道造影(VCUG)時の逆流の様子によって以下のように分けられます.

Grade Ⅰ

尿管のみの逆流。

Grade Ⅱ

尿管、腎盂、腎杯に及ぶ逆流。尿路の拡張、変形はない。

Grade Ⅲ

尿管、腎盂の軽度の拡張あり。腎杯の変形は無いか軽度。

Grade Ⅳ

尿管、腎盂の中等度の拡張あり。腎杯の変形あり。
ただし多くの腎杯で腎乳頭による陥凹は残る。

Grade Ⅴ

尿管の高度拡張や蛇行が認められ、腎盂腎杯の高度の拡張も認められる。腎杯の腎乳頭による陥凹は失われる。

 

 

このGrade IVとVをhigh grade VURと言います.気をつけなければいけないのはこの時の尿管拡張はVCUGの時の判断だということです.つまり逆流を起こしている時の所見ということです.

 

【VURの原因】
一般的なVURの原因は何でしょうか? 一般的に膀胱尿管移行部において粘膜下トンネルが短いことによります.一般的なVURの尿管に形成異常はありません.問題は膀胱側=尿管の周りに存在するわけです.だから手術は粘膜下トンネルを延長するという手術を行うわけです.Grégoir 法などは,尿管口をいじらず膀胱外から粘膜下トンネルを延長する方法ですが,尿管そのものに異常がないことが前提です.

 

【逆流性巨大尿管症】

巨大尿管症はmegaureterとかmegaloureterと言われます.分類は,①逆流性,②閉塞性,③非逆流性非閉塞性に分類され,逆流性巨大尿管症はhigh grade VURと同じ意味と勘違いされたりしますが,原因が全く違います.VURは尿管そのものに形成異常がないことが前提ですが,巨大尿管症は尿管そのものに異常があり先天的に尿管に形成異常がある症例も多く含まれます.逆流性巨大尿管症は,膀胱尿管移行部の尿管そのものに線維化などがあって拡がることも閉じることもできない状態で,非常に細いストローをイメージすればよくて狭窄機転もありながら粘膜下トンネルによって塞がることもできず逆流してしまうような状態です.先天的か後天的かは別として尿管そのものに異常があるわけですから粘膜下トンネルの延長手術の効果が乏しいことも容易に想像されます.

 

【逆流性巨大尿管症とhigh grade VURの鑑別の必要性】

治療効果が違うということです.

  1. 自然治癒が望めない.
  2. 手術として,Grégoir法,Politano-Leadbetter法,Paquin法 など単独で粘膜下トンネルを延長するだけの方法では再発する可能性がある.
  3. 特に非逆流時に尿管径が太い(例えば10mm以上)場合は,尿管形成術やPsoas-hitch法を考慮する.Psoas-hitch法とは,膀胱を可動性とし, 一側の腸腰筋に固定して,粘膜下トンネルを長く(尿管径の4-5倍)とれるようにする方法である.

 

【逆流性巨大尿管症とhigh grade VURの鑑別方法】

病理をみることができないので正確な鑑別は無理であるが,以下のような状況は逆流性巨大尿管症を強く疑える.

  1. 非逆流時の尿管径も太い.(時代的にIVPをやらなくなったので判断は難しいが,MRU(MR urography),DTPAシンチなどは参考にできる)
    単なるhigh grade VURでは非逆流時の尿管径は細くなる.
  2. 高頻度のbreakthrough infection.

 

【参考文献】

  1. 浅沼宏他.乳児期Refluxing Megaureter -High grade VURとの鑑別診断の重要性-.日泌尿会誌. 90; 818-825. (https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjurol1989/90/10/90_10_818/_pdf/-char/ja

新型コロナウイルスの感染力と病原性 - 再考

RSウイルスの流行が季節はずれに起こっています.週当たりの感染者数でみると1年前からずっとほぼ0だったわけですが,今年の1月前後から増え始め,例えば大阪府では4月のピーク時には700人/週となっています.各都道府県の週当たりのRSウイルス感染者数のデータです(https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr.html).

大阪府はCOVID-19感染の多くが変異ウイルス(N501Y)に置き換わっています.私は以前にウイルスの変異は感染力上昇,病原性低下の方向に動くと言いましたが,ちょっと様相は異なっています.申し訳ありません.少しだけ言い訳をすると,どんどん死者が増えてしまうような方向に変異したウイルスは自然淘汰されるという意味でした.その観点で,以下に大阪府の感染者数と死者数を第1波~第4波にかけて眺めてみたいと思います.

表に示したように,明らかに感染者数は増えました.しかしながら,RSウイルスの流行の状況を見ると,この感染者の増加は必ずしもウイルスの感染力が増えたとばかりは言えない気がします.昨年は全く見られなかったRSウイルスの流行が起こっているということは,人の動きが活発になったということだと思います.きっと2020年12月あたりから,我慢に我慢を重ねてきた日本人もさすがにというところでしょうか? 

COVID-19感染 大阪府の実態

 

第1波

第2波

第3波

第4波

ピーク感染者数/日

88

255

654

1260

 ピーク日

2020/4/18

2020/8/7

2021/1/8

2021/4/28

ピーク死者数/日

5

9

23

55

 ピーク日

2020/5/20

2020/8/28

2021/1/27

2021/5/11

死者数/感染者数(%)

5.7

3.5

3.5

4.4

 ピーク日のずれ

32

21

19

13

 

子どもたちに感染しやすくなったと言われますが,そうでしょうか? RSウイルスの流行はRSウイルスの変異によるものでしょうか? おそらく人流が増加して,子どもたちの交流が増えて,子どもたちだって堪忍袋の緒が切れて,RSウイルスの流行が起こり,COVID-19の感染が目立つようになっているのではないでしょうか.子どもたちが,COVID-19に限らず新型ウイルスに強い免疫を持っていることは当然なので重症化は基本的に考えにくいと思います.

この表から見て重症度についてはどうでしょうか? 第2波や第3波と比較すると少し死者数割合が多いようにみえます.変異ウイルスが影響しているのかもしれません.COVID-19感染症に対する治療に熟練してきているのに,重症化(ここでは死亡者数ですが…)の割合が変わらないのはやはり病原性が上がっているからかもしれません.しかし,大阪府医療崩壊が取り沙汰されましたが,それが影響しているかもしれません.一日当たりの感染者数は,重症化に対しての要因(バイアス)となりうるということです.そして第3波と第4波で治療の熟練が大きく変わったとも思えませんが,現場の先生方はいかがですか? 感染者のピークと死者のピークの間隔が短くなっているのは,感染後の経過が違うのかもしれません.潜伏期も短くなって通常の風邪ウイルスに近くなっているのかもしれませんが,経過が早くなるのを重症と考えるならばそうなのかもしれません.

初期からわかっていたことではありますが,“堪忍袋の緒が切れて”きた日本人にとって感染の終息を起こせるのはワクチン接種を広げるしかありません.日本のCOVID-19施策の最大の(というより唯一の)失策はワクチンの出遅れで,これは厚生労働省に責任があると思います.

今後のコロナはどうなるか(ワクチンの拡がりと重症者の発生)

2021年2月21日

 

テレビで,「若者たちにもワクチン接種率を上げるために,何らかのインセンティブを与えるべきだ」と議論されています.なんて愚かな議論でしょうか.ワクチンが進み,今後のコロナがどうなるかを考えてみます.

まず,いくつか前提を書きます.

  • COVID-19が特別に危険なウイルスではないことは,小児や若年成人が重症化しないことから明確です.これまでこのブログ(高齢者とコロナワクチン)で議論してきたとおりです.
  • 何故重症者や死亡者が多いかは,単に新型ウイルスであるからで,新型ウイルスへの免疫対応が錆びてしまった高齢者が重症化し死亡しています.
  • つまり今緊急事態宣言で国民,特に生産性を持っている若い人たちに生活制限を強いている理由は,高齢者の重症化や死亡を防ぐためです.

 

  • どうして医療従事者と高齢者が優先接種か?
    昨年までのコロナ死亡者は3470人で,このうち60歳以上は3273人,約94%です.つまり高齢者の全員にワクチンを接種することができたら,コロナ死亡者は現在の6%に減らすことが可能です(ワクチンの有効性95%を無視していますが).これが高齢者に優先接種をする明確な理由です.
    医療従事者については,医療崩壊を防ぐためもありますが,高齢者や基礎疾患を持っている人たちと接触する可能性が高いことがもう一つの理由です.
    高齢者へのワクチンが完結した残りに死亡者6%も,きっと基礎疾患を持っている人たちが多いわけで彼らにもワクチンが進めば死亡者はもっと減らすことができますね.
  • 医療従事者と高齢者にワクチン接種が終了するとどうなる?
    国の計画通りにワクチンが進むと,高齢者は6月いっぱいに接種が進むことになります.7月には,少なくとも重症者,死亡者は今の10%以下になります.おそらくもっと減っているように思います.一日のコロナ死者数は日本全体できっと10人以下になると思います.これが予定通り7月になるのか,もう少し先延ばしになるのかはわかりませんが,近い将来にこうなります.
  • 若年者に本当にワクチンは必要か?
    基礎疾患がないことが前提です.これはどちらにしても夏以降になります.彼らが重症化し,死亡することはほとんどありません.高齢者の安全のために自粛してくれたことで充分です.「若者のワクチンを進めるために何らかインセンティブを」とテレビで議論されていますが,無駄な議論だし,少なくとも夏以降に議論してもらえばよいと思います.もちろん小児に接種することは,逆に間違いだと思っています.その理由も過去のブログに書いてあります.
  • 高齢者は社会貢献として積極的にワクチンをうつべきです
    これは過去のブログ(高齢者とコロナワクチン)を見てください.若者たちの生活を通常に戻すためへの社会貢献だと思って,高齢者の皆さん副作用を過剰に恐れず積極的にワクチンをうちましょう.

 

 

ちょっと愚痴です.私の施設は重症心身障害児者施設なのですが,県から“3月に職員全員のCOVID-19のPCR(または抗原)検査を希望しないか”という連絡がありました.この検査に何の意味があり,どんな目的があるのか非常に疑問でした.だから“希望しない”と回答しました.職員に,その日に感染しているかいないかに何の意味があるのでしょうか? 今日陰性でも明日は陽性になるかもしれません.抗体を検査するならば,これよりは意味があるかもしれませんが,それでも意味はないと思います.ちゃんと知恵を使って税金を使ってほしいと思います.

高齢者とコロナワクチン

2021年2月4日

 

高齢者は全員コロナワクチンを接種しなくてはいけないということについて,今から皆さんを説得します.

高齢者の仲間入りをして3年になります.高齢者の社会的な役割を考えながら感じたことです.

昔は人生50年と言いました.COVID-19感染拡大下の今も“人生50年”だと想像してみましょう.おそらく新型コロナウイルス感染による重症者数も死亡者数も圧倒的に少ないことが予想されます.そうすると医療崩壊も心配なく,きっと緊急事態宣言もなく,時短営業も必要なかったのではないかと思います.今の社会的な状況は,我々高齢者が居なければ起こっていなかったと考えられ,若者たちには我々高齢者のために様々な我慢を強いていると考えたほうが良さそうです.高齢者は若者たちに守ってもらっていて,本来はしっかり感謝を伝えなくてはいけません.

私の施設は,重症心身障害児者施設で,COVID-19が入ってしまうと入所者に重症者が多数出ると考えて,職員には自粛を強くお願いしています.3月からコロナワクチンを開始する予定で準備を進めています.職員にはワクチン接種希望を聞いていますが,様々な理由で希望しない職員がいます.その中には単に“副反応が心配”というものもいるので,医師として説明させてもらっています.このような状況はうちの施設に限らないし,きっと高齢者にも“副反応が心配”ということでワクチン接種を希望しない人もたくさん出るのではないかと想像されます.

こんなことを考えていると,若者たちに守られている高齢者は,たとえわずかに副反応のおそれがあってもみんな積極的にコロナワクチンを接種すべきだ,そうすることが社会的な役割の少なくなった高齢者ができる数少ない社会的貢献の一つではないか,高齢者全員が接種すれば緊急事態宣言も不要だし,いろんなお店が通常の営業に戻すことができると思います.ここからはちょっときつい言葉ですが,本来は自然淘汰されるべき我々高齢者は若者に守ってもらっているわけだから,ごくわずかな社会貢献(高齢者全員がまず毒味として率先してコロナワクチンを接種する)をしようではありませんか.

小児と新型コロナワクチンについて

皆さん,あけましておめでとうございます.

COVID-19感染が過去最高に拡大する中,ようやくワクチンを接種できる状況が近づいてきました.

 

私の地域の小児科医の集まりで,小児は新型コロナワクチンを接種すべきか否かという議論がありました.私の個人的な意見を述べたいと思います.

この考え方の基本に流れる私の考え方を,まず羅列しておきます.

 

  • 新型ウイルス出現は繰り返されてきた.
  • 新生児,乳児,幼児など小児にとって,ほとんどのウイルス感染は新型ウイルスである.
  • 小児の免疫系は新型ウイルスに対応できる.
  • 成人がウイルス感染に強い理由は,それまでの感染歴にある.
  • COVID-19は他の風邪ウイルスと病原性(毒性)は変わらない.
  • ウイルスの進化は,「感染力が上がり病原性が下がる」方向が原則である.
  • 新型コロナワクチンの対象から小児や若年成人は除外すべきである.
  1. 新型ウイルス出現は繰り返されてきた.
    地球の歴史,動物の歴史,人類の歴史上,当然ながら新型ウイルスの出現は繰り返されており,現在地球上にいるウイルスは全て新型ウイルスの時期があったわけです.過去には科学がそのレベルにないために新型ウイルスかどうかわからず,「なんか今年の風邪は年寄りが多く死ぬな~」と感じていたのでしょうね.
  2. 新生児,乳児,幼児など小児にとって,ほとんどのウイルス感染は新型ウイルスである.
    母親からの移行抗体が半年間有効であるとしても,それ以降のウイルス感染の多くは子どもたちにとって新型ウイルスです.そこが成人とは大きく違うところです.
  3. 小児の免疫系は新型ウイルスに対応できる.
    スキャモンの発育曲線のリンパ系は抗体量などで表現しているのでしょうか? 実際はかなり違うような気がします.乳児期早期までは別として,それ以降の小児は初めての感染症にしっかり対応できるように進化しているはずです.つまり小児の免疫系は新型ウイルスに適応できるようになっていると思います.それが合目的的です.
  4. 成人がウイルス感染に強い理由は,それまでの感染歴にある.
    成人の免疫系は老化しています.しかし,ウイルス感染で皆が重症化するわけではありません.それまでの人生の感染歴で免疫担当細胞には様々な記憶があるからです.老人が英会話を新たにやる場合や,新たな楽器に挑戦しても大してうまくならないことと同様に,しかも若いころからある楽器をやってくると老人も上手であることと同様に,新型ウイルスに全く記憶のない老人はうまく対応できないのです.このことから考えると,小児や若年成人の一生を考えると,今新型コロナに罹患しておくほうがhappyなような気がします.このことについては後述します.
  5. COVID-19は他の風邪ウイルスと病原性(毒性)は変わらない.
    COVID-19が他の風邪ウイルスより重症ウイルスかどうかは,子どもたちが重症化するかどうかを見れば解答が分かります.子どもたちが重症化している様子はなさそうです.つまりCOVID-19は他の風邪ウイルスと病原性は変わらないのだと思います.ただ新型ウイルスに弱い(過去の未学習領域に弱い)老人にとっては重症化してしまう危険があるということです.同じ老人でも過去のいろんなウイルスの感染歴によって反応の仕方は変わりそうですが….そして,きっと日本中に新型コロナに感染しているが無症状の子ども(不顕性感染の小児)がたくさんいるような気がします.きっと,日本には4万人くらいは小児の新型コロナ既感染者がいるのではないでしょうか.と言っても累計で0.2%ほどですけどね.
  6. ウイルスの進化は,「感染力が上がり病原性が下がる」方向が原則である.
    もちろん変異はどの方向にも起こると思います.しかしウイルスの生き残りは「感染力が上がり病原性が下がる」の方向以外にありません.病原性が上がる方向の変異を起こしたウイルスは宿主とともに駆逐されます.だから,基本的には新型コロナの感染は拡大し,重症化については終息していくものと思われます.
  7. 新型コロナワクチンの対象から小児や若年成人は除外すべきである.
    とにかく感染したら重症化する人たち(老人や基礎疾患のある人)にワクチンをうつことが重要です.小児を含めて若年者は,若いうちに自然感染するべきだと思います.自然感染した時と,ワクチンによる免疫獲得は質が違うというのが前提です.子どもたちは,彼らにとっての新型ウイルスに感染しておくことが,その後の人生の対感染症の力をつけておくことにつながる気がします.

 

加齢と大脳皮質による制御

歳をとってくると,大脳皮質の制御がきかなることを,身をもって経験しています.

スキャモンの発育曲線の神経系をみると,4歳くらいで8割くらいは成熟します.残念ながらスキャモンの発育曲線に20歳以降の表現はありません.きっと神経系を人生全体で表現すると奈良の若草山のようになだらかに上昇し,加齢とともになだらかに下降し,67歳の私は6割くらいだとすると3歳児と同等かもしれません.

 

皆さんご存知の通り,随意運動をつかさどる神経は上位運動ニューロンと下位運動ニューロンに分かれます.皮質脊髄路とか錐体路と呼ばれ,大脳皮質の運動野から脊髄を経て,骨格筋に至る伝導路のことです.上位運動ニューロンが障害を受けると,筋肉からの求心性線維と下位運動ニューロンとで作られる反射弓が作動して反射の亢進が起こります.乳児はバビンスキー反射が出ますが,これは皮質脊髄路の未熟性からくるものです.また,皮質核路といって,皮質から脳幹までの上位運動ニューロンもあって,乳児期早期はその未熟性によって非対称性緊張性頚反射がおこります.成人が脳損傷を引き起こすとこれらの反射が病的反射として出現します.きっと加齢によっても出るようになる気がします.ネットをみると加齢によりバビンスキー反射が出るという記載がありました.乳児期に原始反射と呼ばれるようなものは,皮質路の成熟により消失していきます.

 

私の専門の尿路について考えてみます.膀胱排尿筋と尿道括約筋は協調して作動します.生理的な膀胱排尿筋と尿道括約筋(括約筋群の一部)の組み合わせを理解してみましょう.
 蓄尿相:膀胱排尿筋の弛緩 + 尿道括約筋の収縮
 排尿相:膀胱排尿筋の収縮 + 尿道括約筋の弛緩

この2種類の組み合わせしかありません.これ以外の状況は排尿筋括約筋協調不全です.

排尿も上記の錐体路とよく似ていています.膀胱圧受容体からの求心路と,排尿筋や括約筋への遠心路が反射弓を作っています.そしてそれを皮質が制御しています.乳児に原始反射があるように,赤ちゃんは意識下に皮質とのやり取りなく反射弓を利用して排尿します.これを“赤ちゃん膀胱”と名付けましょう.皮質の制御の成熟が起こると“成人膀胱”となって,意識して排尿するようになります.この“赤ちゃん膀胱”から“成人膀胱”への成熟の完成は,定型的な発達の子では3~4歳と言われています.これがトイレットトレーニングを慌ててはいけない理由です.“赤ちゃん膀胱”からの成熟が長引いてしまうと“過活動膀胱”と呼び,頻尿や昼間尿失禁が起こります.この成熟の遅れの理由にはいろいろありますが,もちろん非定型的な発達もあり,便秘(このブログのBBDの項を見てください)があり,厳しいトイレトレーニングがあり,愛着障害があります.ところで,テレビのコマーシャルで,過活動膀胱の治療薬についてやっていますが,これは加齢によるものです.加齢によって大脳皮質の制御が衰えて“赤ちゃん膀胱”に還っていくわけですね.僕も3歳児程度だとしたらそろそろです.

 

次に,自分の人生2番目の専門領域である発達障害についてです.発達障害についてはこのブログの“子育てについて”にも書きましたが,この病態を理解するためのキーワードの一つが“不安・恐怖”です.不安や恐怖、それに対する体の反応を起こす中枢は「扁桃体」と考えられています.この反射弓を制御するのは前頭前野と言われています.皮質脊髄路,皮質核路や,排尿のコントロールによく似てますよね.彼らのパニック行動(逃げる,固まる,闘う)を理解するのに重要なのは,悪意はなく反射で行動しているということです.このことについて両親をはじめとして周囲が理解してあげることが,環境整備のスタートです.これらは動物として生き残るために必要な機能ですが,人間にはあまり必要がなくなっています.ところでこのパニック行動は定型的な発達の小児でもよく見かけます.おそらく前頭前野扁桃体に対する制御は年齢とともに成熟していきます.発達障害の子供たちのパニック行動も年齢が上がってくると少なくなります.しかし,これまでの例と同じように,発達障害の質を持つ人たちが歳をとるとパニック行動が増えていくことが想像できます.これらが精神科領域でどのように診断されているのかは興味深いですね.

 

ここからは番外です.ここからの発言も歳をとったからできることですね.

「日本の慢性腎臓病(CKD)罹患率は成人全体で8人に1人」とテレビでもコマーシャルしています.私は67歳で,eGFRは60ml/min/1.73m2を切るか切らないかで,この8人に1人に入りかけています.60を切ると他に異常がなくてもCKDの仲間入りです.私がCKD活動を始めたのは2006年ころからですが,2010年ころの日本腎臓学会のシンポジウムの時でした.シンポジストとして内科の先生たちに質問したのは,「実は新生児期から乳児期早期は腎機能の未熟さのために生理的CKDです.70歳台になると2人に1人がeGFR60未満となってCKDです.この人たちのGFRの低下はdiseaseではなくてagingなのではないですか.8人に1人というのはおかしくないですか?」と発言したことがあり,社会的キャンペーンであることを無視して発言したことで会場の雰囲気が白けたのに気づき話題を変えたことがあります.今でもおかしいと思っていますが,以後は公式の場では発言していません.加齢は病気ではありません.病気は不幸ですが,加齢は不幸ではありません.加齢を受け入れて残りの人生を生きようと思います.そして,反射的な行動により老害とならないように衰えた大脳皮質を使って努力しようと思います.