1.今回のアビガン臨床試験の臨床疑問,研究疑問を考えてみよう
臨床疑問:アビガン5日間投与は新型コロナウイルス駆逐に有用か
研究疑問:
【患者】 PCR陽性の軽症コロナ感染者
【介入群】 アビガン5日間投与(投与群)
【比較群】 アビガン非投与(非投与群)
【評価】 6日目のPCR
2.症例数86例の設定は,どうやって考えられたか
おそらく非投与群は,6日目はPCR陽性のはずだがPCRの感度を70%と想定して,陽性者:陰性者を7:3と考えた.そして,投与群の7割がPCR消失となれば有効と臨床医が考えたと仮定しよう.2×2の表を比率でみると…
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6日目陰性 |
6日目陽性 |
計 |
投与群 |
7 |
3 |
10 |
非投与群 |
3 |
7 |
10 |
計 |
10 |
10 |
20 |
この比率の効果量φは0.40となる. これで,α誤差0.05,β誤差0.20として,症例数設定をしてみる. G*powerを使うと,症例数は82例となります.86例とは少し違いますが,近い計算をしたのではないかと思う.
3.最終的には検定力80%で証明できる
研究者の想像が当たり,およそこの比率で研究が終了したとします.総数は簡単のために80例としました.β誤差の設定のおかげで少し余裕が出て,少し比率が低いような以下の分布でもp=0.013で有意にアビガン有効となります.
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6日目陰性 |
6日目陽性 |
計 |
投与群 |
24 |
16 |
40 |
非投与群 |
12 |
28 |
40 |
計 |
36 |
44 |
80 |
- 現在の状況はどうか
まだ半数の40例しか検討できていません. 中間解析で,40例で検討してみました.本来はやるべきではないと思います.有害事象が出たかどうかを検討することが重要でした.しかし検討してみたところ,3.と同じ比率だったとします.この場合p=0.111で有意にアビガン有効とは言えませんでした.これであれば最終的に有効であるといえる可能性が高いです.症例数を倍まで増やせば,上の結果になることが予測されます.
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6日目陰性 |
6日目陽性 |
計 |
投与群 |
12 |
8 |
20 |
非投与群 |
6 |
14 |
20 |
計 |
18 |
22 |
40 |
- しかし,このような結果にはならないかもしれません.何が問題かというと,5日間という恣意的な境界を作った科学的根拠があるかということです.何らか過去の論文があり,5日間のアビガン投与で消えているという報告があればそのデータを利用することで科学的になります.しかし,この5日間を決めた根拠がなければ証明することは難しいかもしれません.
- ここは提案です
もしも86例まで症例が増えても統計的に有効性が証明できない場合のことが研究開始前から決められているかどうかです.例えば,予想より実際の効果量は低く,症例数設定が足りなかった場合も,その効果量を統計家ではなく臨床医が眺めてみて効いているのではないかと思った場合は,大きな副作用がなければ使用できる方向に舵を切ることです.
何しろ,
①5日間の境界は科学的ではない
②評価(エンドポイント)である6日目のPCR陰性は本当に意味があるのか
という問題があります.
- 本来(真)のエンドポイントは死亡や重症化です
6日目のPCR(陰性)は代理のエンドポイントとして正しいでしょうか? 研究のデザインに大きな問題があるわけですが,緊急事態ですからそのような研究デザインもやむを得ないと思います.統計的に有意でなかった場合に,臨床医としてどのように判断されるかに期待しています.